女性で2番目に多い「がん」は?
内科医師の春田です。私はクイズ番組が大好きでよく家族とテレビを見ているのですが、問題が尽きてきたのか段々難しい問題が増えて全く解けません(涙)もう“1番”を答えるような問題は簡単すぎて(例えば「1番高い山」とか「1番大きい湖」とかは)ほとんどなく、最近は“2番目”ですね。
「日本で2番目に高い山は?」「日本で2番目に大きい湖は?」「日本で2番目に大きい都道府県は?」など(答えはこの文章の最後に載せておきます)。
さて、ここからが今回の本筋です。
「女性で1番多いがんは乳がんですが、2番目に多いのは何がんでしょう?」
女性で2番目に多いのは大腸がん
答えは「大腸がん」です。大腸がんは男性でも3番目に多いがんで、毎年多くの人に大腸がんが見つかるので、人間ドックはもちろん住民健診でも積極的に検査を行い、国をあげて早期発見に取り組んでいるがんの1つです。
大腸がんを見つける検査は「便潜血検査」です。指定された容器に便を2回分とるだけで、体の負担もなく、それでいてそれなりに大腸がんを見つけることができるのでとても優れた検査なのですが、残念ながら毎年一定の割合で手遅れの状態で大腸がんが見つかる人がいます。大腸がん検診を受けていたにもかかわらず、です。
その理由は「大腸がん検診で引っかかったのは別の理由があるからだ」と思い込んでいること。便潜血検査は単純に、便の中に血が混じっているかどうかを調べる検査です。なので、この検査で陽性と言われても「私は痔があるから陽性なのだ」「その時は便が硬くて力んだからお尻が傷ついたのだ」と自己判断してしまい、精密検査を受けないでそのまま過ごしてしまうのです。
もう1つ勘違いされがちなのは、便潜血検査は2回分の便を検査しますが、2回陽性でも、1回陽性でも「陽性」であることに違いはない、ということです。この検査を2回行うのは、1回よりも2回の方がより精度が上がる(がんを見落としにくい)からです。
なかには「大腸がん検診で陽性と出たけど、何かの間違いだと思う。もう一度便の検査してほしい」という方がいますが、1回でも陽性になったのであれば精密検査は必要なのです。追加で2回検査して、それが陰性だったので安心していたらお腹が痛くなって進行性の大腸がんで見つかった患者もいます。便潜血検査は1回でも陽性なら精密検査が必要、これ大事です。
大腸がんの精密検査
では、大腸がんの精密検査はどんな検査なのでしょうか。通常は以下の3つの検査のうち、どれか1つを行います。
大腸カメラ(大腸内視鏡検査)
大腸専用のカメラ(胃カメラが長くなったもの)をお尻から挿入し、大腸全体を観察します。がんの可能性がある部分をつまんで、細胞検査を行うことも可能です。放置するとがんに変化する可能性のあるポリープや、早期の大腸がんに対してはカメラで内側から切除し、治療まで行うこともできます。
注腸検査
胃の検査でも胃カメラ以外にバリウムの検査があるように、大腸にもバリウムの検査があります。お尻から直腸に管を挿入し、そこからバリウムや空気を入れてレントゲンで撮影をします。大腸の奥までバリウムを届けるため、ベッドの上を指示通りゴロゴロ転がって体勢を変える必要があります。
この検査は大腸の形を見るだけの検査になるので、もしこの検査で大腸がんや大腸ポリープが疑われた場合には、通常大腸カメラの追加検査が必要です。注腸検査で異常がなければ大腸がんはないと判断され、精密検査は終了です。
CTコロノグラフィー(大腸3D-CT)
比較的新しい検査で、大腸に空気を入れて大腸全体を膨らませた状態でCTを撮影します。1回、もしくは2回CTを撮影して終了です。それほど体の向きを変えなくてもよいので、注腸ほど動く必要はありません。
この検査も大腸の形を見るだけなので、病気が疑われたら大腸カメラの追加検査が必要です。
女性の患者さんが大腸がんの精密検査をしたがらない理由で最も多いのは「お尻を見られるのが恥ずかしい」というものですが、実際にはどの検査でもお尻の部分だけに小さな穴のあいた検査用のズボンを着用するので、それほど恥ずかしい思いはしませんよ。
「どうしても、どうしても女性の医師や技師に検査をしてほしい!」ということであれば、あらかじめ病院に要望として伝えることは可能です。しかし現状、割合的には男性の医師や技師の方が多いので、女性による検査を希望すると場所や日時に制限が出る可能性があります。
便潜血検査で陽性でも、大腸がんとは限らないが…
ずいぶん脅かしてしまったかもしれませんが、便潜血検査で陽性だった人のうち、本当に大腸がんである人はどのくらいいるのでしょうか?
いろいろな病院の報告をみてみると、だいたい便潜血陽性の人を100人集めたら、その中で大腸がんが見つかるのは2~3人です。つまり2~3%ですね。ですから、大腸がん検診で引っかかったからといって、かならずしも大腸がんとは限らないのです。さらに大腸がん検診で見つかった大腸がんは7割が早期がんと言われており、便潜血検査が大腸がんの早期発見に有用であることは明らかです。
反対に、大腸がんの割合がそんなに少ないなら精密検査はしなくてもいいんじゃないか、と考える人もいるかもしれません。大腸がんが見つかる可能性はとても低いのですが、大腸ポリープが見つかる割合は病院によって差はありますが20~50%と言われています。このポリープを大腸カメラで切除することで、大腸がんにならずに済むのです。
大腸がん検診や便潜血検査は大腸がんで苦しむ人を減らすことができるとても優れた検査ですが、陽性と言われても精密検査を受ける人は3人中2人だそうです。せっかく検査を受けたのに、後になって後悔することがないよう、この記事を読んでくださった皆さんには正しい判断をしていただきたいと思います。
さて最後に、最初のクイズの答え合わせです。
「日本で2番目に高い山は?」→北岳
「日本で2番目に大きい湖は?」→霞ヶ浦(かすみがうら)
「日本で2番目に大きい都道府県は?」→岩手県
内科医
春田 萌
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
大学病院、二次救急病院、在宅医療を経験。