医師が新型コロナワクチンについて説明します 其の一
内科医師・春田です。新型コロナはまだまだ猛威をふるっています。そんななか始まったワクチン接種。
しかし、さまざまな報道でワクチン接種に対して不安を抱いている人も多いようです。
私のところにも「祖母は95歳ですがワクチンを打った方がいいのでしょうか?」「癌治療をしている僕は接種してもいいのでしょうか?」「花粉症がありますが大丈夫ですか?」と言った質問が続々と来ています。すでに医療者への接種も始まっていますが、看護師さんの中にも「ワクチンを打つのは怖い」という人もいます。
先に断っておきますが、この記事はワクチン接種を勧めるものでも、否定するものでもありません。正しい知識にのっとって皆さんで判断していただけるよう、できるだけ噛み砕いてワクチンのことを知っていただく記事にしました。そのため、難しいことはあえて省略して、できるだけシンプルな表現を心がけました。また、この記事は2021年4月末の情報を基に作成しています。
多くの人が新型コロナワクチンに対して抱いている不安は、以下の3つだと思います。
①今までのワクチンは数年かけて開発したのに、新型コロナワクチンは数カ月で作られたこと
②はじめてのmRNAワクチンであること
③副作用のアナフィラキシーについて
これらについて1つずつ解説していきましょう。
これまでのワクチンには開発から実際の使用まで何年もの年月がかけられているのに、新型コロナワクチンは急いで作られた印象を受ける人もいるでしょう。
実際、新型コロナワクチンは通常の作り方では間に合わない、と世界中が知恵を絞って、短期間で作り上げたものです。そうしなければ、多くの人が感染し世界経済が止まってしまう、そういう事情があったからです。
実のところ新型コロナワクチンがそんな短期間で作れるかどうかは、やってみないとわからない状況でしたが、結果としていくつかのワクチンが完成しました。これはこれまで積み重ねた研究・実験の賜物でもあります。
その1つが全く新しい手法であるmRNAワクチン。現在日本で接種されているファイザー社製、そして現在承認申請中のモデルナ社製のワクチンです。
mRNAは簡単に言うと「たんぱく質を作るための設計図」です。
これが細胞に届くと細胞の中で設計図に従ってたんぱく質を作ります。新型コロナワクチンの場合はウイルスの模型を作る設計図が入っています。あくまでウイルスの模型なので、これによって新型コロナを発症することはありません。
体はこのできあがった模型に反応して、その形のものに対する免疫を完成させます。すると、次に本物の新型コロナウイルスが体内に侵入してきたときに、早い段階から全力で戦うことができるのです。
mRNAは最終的には体内で分解され、人間の遺伝子(DNA)を変化させることはありません。
ワクチンの副作用で「アナフィラキシー」が話題になっています。アナフィラキシーとは複数の臓器に起きる重症なアレルギー反応です。
たとえばアレルギー反応が皮膚だけに起きれば「じんましん」、気管支に起きれば「喘息」、目や鼻に起きれば「花粉症」となりますが、アナフィラキシーの場合は全身にアレルギー反応を起こします。そのため皮膚に発疹が現れ、呼吸はゼーゼーし、嘔吐や下痢を引き起こしたり、場合によっては血圧が下がって意識が無くなることもあります。放置すれば命に関わる状態です。そのため、新型コロナワクチンでは接種後15分~30分様子を見ることになっています。
現在日本で接種されているファイザー社製のワクチンには、不安定で壊れやすいmRNAを安定化させるための添加物としてポリエチレングリコール(PEG)という物質が添加されていて、この物質がアナフィラキシーの原因になっていると考えられています。しかし、このPEGはファイザーのワクチンだけに含まれているわけではありません。PEGはこれまでにも化粧品や歯磨き粉に使用されています。
また、ファイザーのワクチンには含まれていませんが、PEGと形が似ているポリソルベートという物質は過去にいくつかのワクチンに使用されており、このポリソルベートにアレルギーがある人は、ファイザーのワクチンでもアレルギーを起こす可能性があります。そのため、過去にワクチンでアナフィラキシーを起こしたことがある人は接種しないように、アレルギー反応を起こしたことがある人は接種する場合注意が必要、と厚生労働省のホームページに記載されています。
では、実際に新型コロナワクチンのアナフィラキシーの頻度は多いのでしょうか? ファイザー社製の新型コロナワクチンでは、100万人接種で4.7人にアナフィラキシーが見られたと報告されています。言い換えれば20万人に1人です。
他の薬ではどうでしょうか? インフルエンザワクチンでは、100万人に対し1.4人という報告があります。比較すると、新型コロナワクチンは多いですね。ところが、もっと身近な抗生剤では100万人中400人、ある痛み止めでは100万人中1,300人と報告されています。
加えて、今回の新型コロナワクチンは接種後、万が一(実際には万が一よりも確率は低いのですが)のアナフィラキシーに備えて、経過観察する時間がもうけられ、アナフィラキシーが起きても直ちに対応できる準備が整っています。そういう意味では、決してワクチンによるアナフィラキシーの頻度は多いわけではなく、安全な環境で接種できるような体制になっています。
いかがしたか? 新型コロナワクチンについて少しでも理解は深まりましたでしょうか。
冒頭に、私のところに患者さんやその家族からワクチン接種について質問が来ているとお話しましたが、私の返事はいつも同じです。
「現在、国が接種しないほうがいいと言っているのは、過去のワクチン接種でアナフィラキシーを起こした人と、接種当日体調が悪い人だけです。それ以外の場合、たとえば高齢であるとか、病気があるとかという理由で、接種してはダメ、とは言われていません。
ただし、接種するかどうかは最終的には本人が判断してください。私たちはワクチンを打った場合のメリット・デメリット、コロナに感染した場合の重症化などを天秤にかけて、より安全な道を示すことしかできません。
右の道を行けば10人に1人が交通事故に遭う、左の道を歩けば100人に1人が交通事故に遭う、というデータが出ているときに、左の道の方がより安全ですよ、と示すようなものです。今回の話は、残念ながらどちらかの道が100%安全、という話ではないのです」
内科医
春田 萌
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
大学病院、二次救急病院、在宅医療を経験。
参考HP
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/receive/
http://www.kouekikai.jp/wp-content/uploads/2021/03/ccf1e0b8021d93e6785e69fd5039ce7b.pdf
https://www.rnaj.org/component/k2/item/855-iizasa-2
https://www.rnaj.org/newsletters/item/856-furuichi-28
関連記事