「今までしたもらったことを周りに返せる人でありたい」|坂井真紀さんインタビュー【後編】
いつまでも少女のような透明感を持つ坂井真紀さんも、プライベートでは一児の母。映画やドラマでも多くの母親役を演じてきた坂井さんに子育てや仕事観の変化、介護や老いについても伺いました。今回の後編では仕事への姿勢についてのお話を中心に紹介。
「死ぬこと」も大変な作業 準備をしておくことが大事
日々の食事には強いこだわりはありませんが、お肉、魚、野菜をバランス良く食べるという、ざっくりと した方針だけあります。料理は実家で覚えた家庭料理です。仕事で忙しい母からおおまかな指示を受けて、小学校高学年くらいには妹と手探りでカレーや餃子のつくり方を覚えました。当時は我が家ってなんだか雑だなぁと思っていましたが、今思うと、それくらいがちょうどよかったのかも(笑)。
食事以外で心掛けているのは、毎日2リットルの水を飲むことです。乾燥しやすい冬は、肌のためにも水分補給が欠かせません。あとは、安いものでいいからシートパックで朝晩保湿をします。冷え対策には毎朝白湯を飲んで、夜は湯たんぽを愛用しています。
50代に入ってから、体がとても疲 れやすくなりましたね。仕事中は気を張っていますが、家に帰って一度座るともう立てません(笑)。たった一つの体なのだから、大切に労わってあげることを忘れちゃいけないと、その意識を忘れないようにしています。ストレッチや歩くことなど、ちょっとした努力の大切さが身にしみる世代です。老いることはありがたいことだし、前向きにとらえたいなと思っています。老いに関する雑誌の特集を読んだり、いろんな情報を調べたりしています。
今は両親も元気ですが、介護は意識し始めていますね。3年前に出演した映画「痛くない死に方」では、専門家の方に指導を受けながら、在宅介護の大変さを疑似体験させても らいました。死ぬこと自体も大変な作業なんだと思い知りましたね。誰しも必ず死が訪れるもの。死については過剰にネガティブにならず、赤ちゃんが生まれるときに出産準備をするのと同じように、支度しておくことが必要だと強く思いました。あらかじめ覚悟をして、きちっと向き合うべきじゃないかって。家族だけでは大変なときもありますから、頼れるところには助けてもらうことも必要だと感じます。
自分よりも周りのことを 人の心を温かくできたら
人に見ていただく職業なので、私の発言は大丈夫だったかなとか、うまく演じられなかったかなと、落ち込むことも多々あります。でも自分の性格上、立ち止まる時間が大事なことも知っているので、あえて一度落ち込んでおくこともあります。その後に、ポジティブにいこうと自分に言い聞かせると、意外と前向きな気持ちになれるんです。
悩みを人に相談して、背中を押してもらうこともありますね。歳を重ねると20代の頃のような夢の見方はできない。現実が見えて、夢や理想が叶うかどうかがわかってきちゃうじゃないですか。でも、そう思っていたときに、ある方に「目標があるなら、いくつになってもそ こはブレなくていい」と言っていただいて、考え方が変わりました。自分も誰かにとって、そんな背中を押せるような存在でありたいと思っています。
最近は、自分が年上の方にお世話になったように、若い子たちに何かを返せたらいいなと考えるようになりました。周りのことを考えるようになるのが、成熟するということだと思います。昔は自分がやりたいかどうかが仕事の選択基準でしたが、求めてくださるものに応えたいという気持ちも年々強くなってきたように感じます。この夏、朝の情報番組「ZIP!」にパーソナリティとして呼んでいただきました。演技ではなく生身の自分を出すことに怖さもありましたが、皆さんに元気な朝を届けられたらと挑戦しました。
この先、そこまで大きな目標は考えていませんが、関わった人たちの心を少しでも温かくできるような人間でありたいと思っています。人って笑いかけられたり、言葉一つで幸せになったりするものだと思うので。母親になって思いますが、子どもが大きくなったときの未来が心温まる世の中であったらいいなぁって、そんな夢を描いています。
坂井真紀さん
さかい・まき●女優。1970年生まれ。1992年に女優デビュー。数々の映画、テレビドラマ、舞台に出演。映画「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2008年)で日本映画批評家大賞助演女優賞を受賞。最近の出演作に、ドラマ「たそがれ優作」、映画「アナログ」「カラオケ行こ!」など。
●この記事は『めりぃさん』2023年12月10日発行号に掲載された内容を再編集しています