『めりぃさん』の本棚 鎌田實さんの心をほぐす一冊
撮影/角 朱里 構成・文/明滝 園 協力/大和書房
『めりぃさん』の読者におすすめしたい書籍をピックアップする新企画。
今号は、国内外の医療現場で医師として活躍し、近年は健康にまつわる書籍も多数執筆している鎌田 實さんの一冊を紹介します。
鎌田 實/著 大和書房 880円
“もう歳だから”と大人しくする必要はない!
“遊行”をキーワードに書かれた『70歳、人生はもっと楽しくなる』で、鎌田さんは自分自身の人生を生きることの尊さや喜びを説いています。
「バラモン教やヒンドゥー教の法典では、人生を『学生期』『家住期』『林住期』『遊行期』の4つの時期に分けています。『遊行期』とは本来なら、死に向かう人生の締めくくりのときであり、慎ましく過ごす時期と考えられています。
でも私は“もう歳だから”と大人しくなるなんてもったいないと思うんです。むしろ、仕事や子育てなどが落ち着いた70歳あたりからが自分の人生を謳歌するチャンスではないでしょうか。
私の考える『遊行』とは、あるがままに生きること。人間関係などのしがらみや世間の価値観と闘いながら、それでも自分に正直に生きている人は輝いているし、死も恐怖ではなくなるのです」
しかし、それは好き勝手に生きることとは違うと鎌田さんはいいます。
「人は誰しも役割を持っています。どんなに些細なことでもその役割を見つけて、それを全うしながら自分の描く人生を自由に生きることこそ、喜びではないでしょうか。
見つけた役割を果たしているときこそ、私が考える『遊行』の精神が生きるのです。役割を見つけた人は、考え方や行動が自ずと変わるはず。哲学者のニーチェも、人は生まれ変わっていかなければ衰退する、という趣旨のことを述べています」
鎌田さんは今、国内外の医学生と一緒に終末期を迎えたがん患者に会い、生や死と向かい合うなど、次世代の育成に力を入れています。
「自分の地位や考えに執着する年配の人っているでしょ? そうじゃなくて、自分の持っている知恵や技術を惜しみなく次世代に伝えていくことも僕の役割」
鎌田さんが思う「遊行」の精神を、若い人にも持ってほしいといいます。
「いつもお行儀よくいる必要はないんです。ときには思い切り怒ったり、自分の弱さを認めたりすることが大切。自分の役割に忠実に、自分を大切にして生きてほしい」
“利己的”と“利他的”の両方を持って生きるべし
鎌田さんは諏訪中央病院院長を務めていた48歳のとき、パニック障害を発症した経験を持ちます。
「ずっと強いと思っていた自分の弱い面に初めて気が付きました。それから、本当にやりたいことを自分に問うように。自分の役割を考えると同時に、もっと自由に生きていこうと思ったんです。それから53歳で院長職を辞し、国内の災害地域や、イラクなどの紛争地域へ医療支援に行くようになりました」
鎌田さんには、幼い頃から二つの夢があったそう。
「一つ目は、人の助けとなること。二つ目は、本を書くこと。73歳の今、そのどちらも叶っています。自分がやりたいことをやっているという意味では“利己的”ですよね。でも、私の医療や本が少しでも誰かの役に立っているなら“利他的”でもある。二つをごちゃ混ぜにするとちょうどいい」
鎌田さんの、「人生は楽しんだ者勝ち」とにっこり笑った表情に生への充実がにじみます。
鎌田 實さん
かまた・みのる●1948年東京都生まれ。医師・作家・諏訪中央病院名誉院長。東京医科歯科大学医学部卒業。74年、長野県の諏訪中央病院に赴任。以来40年以上にわたって地域医療に携わる。日本チェルノブイリ連帯基金理事長なども務め、被災地支援にも精力的に取り組んでいる。多数の著書を発表し、『がんばらない』(集英社)はベストセラーに。