秋の夜長を名探偵と過ごす アガサクリスティ傑作選
秋の夜長には本格ミステリー小説がお似合いです。
薄暗い外の闇を感じながら海外の古典を読むのははいかがでしょうか?
海外ミステリーは地名や登場人物の名前になじみがなく、覚えられないので苦手…というプラチナエイジも多いかもしれませんね。
クリスティの作品は舞台が閉鎖的で、登場人物も個性的なので、難しい地名や名前を無理やりインプットする必要はありません。
舞台化を想定した物語が多く、読み進めていくうちに頭の中で映像として再現しやすいのも特徴です。
ミステリーの面白さは何よりもラストの意外性。
クリスティ作品にはドキドキハラハラな展開はありませんが、登場人物たちの会話や行動によって、穏やかにゆっくりと「騙される」という感覚を味わえます。
今回は時を経て色あせぬクリスティの名作たちの中から、プラチナエイジにおすすめの4選をご紹介。
少し肌寒い秋の夜に、温かい飲み物とブランケット、座り心地の良い椅子を用意していざ、クリスティの世界へ小旅行!
クリスティの人気シリーズ2つといえば
クリスティの代表作といえば名探偵ポアロ、ミス・マープルシリーズのふたつ。
どちらも名探偵のイメージとは少し離れた個性的なキャラクターとして有名です。
たまご型の頭と大きな口ひげのおしゃれさん【名探偵ポアロ】
ベルギーからイギリスに亡命し、探偵として活躍しているポアロは美食家で、潔癖症でプライドが高い気取り屋です。
ポアロはあっと驚く名推理を披露し、称賛されることが大好きで、ラストまで自分の推理を人に話す事はありません。
作品を一度読み終えたあとに再読して、どの時点でポアロが犯人を疑い始めたのかを読み解くのも楽しみ方のひとつですよ。
ポアロシリーズはクリスティの死後発表された「カーテン」で幕を閉じます。
あらゆる意味でのポアロの真骨頂が見られる傑作。
未読の人は「カーテン」をラストにとっておくことをおすすめします。
桃色の肌の編み物上手、詮索好きのおばあちゃん【ミス・マープル】
クリスティ自身が著書の前書きで「自分の祖母に似ている」と称したのがミス・マープル。
警察本部長や警部からも一目置かれるほどの推理力を持っているのですが、ミス・マープル本人はイギリスの小さな田舎村セント・メアリ・ミードから出たことがありません。推理の方法も個性的で、どんな事件の関係者もセント・メアリ・ミードの住人たちの人間性と重ね合わせ、行動パターンを読み解いていく手法をとっています。
編み物が得意で噂好き、趣味はガーデニングという典型的なイギリスのおばあちゃんが一見ドライにも感じられる鋭い視点で事件を解決していく姿は痛快です!
クリスティ自身が、ポアロとミス・マープルを比べた時に、ミス・マープルに少しだけ肩入れしていると書いています。また、短編にはミス・マープル、長編にはポアロが向いていると分析して、自分の生みだしたキャラクターを使い分けてもいました。
あなたはどちらの名探偵に興味を持ちましたか?
名探偵ポアロシリーズの傑作とは
クリスティはポアロシリーズで多くの長編を残しています。
名作揃いですが、中でも初期の作品には勢いが感じられ、読み応えも満点です。
クリスティのデビュー作「スタイルズ荘の怪事件」
クリスティの処女作となる「スタイルズ荘の怪事件」。
田園風景にたたずむイギリスの屋敷「スタイルズ荘」で事件は起きます。事件の起きた晩に屋敷にいた人物の中で誰が犯人なのか、現場に残されたいくつかの痕跡と登場人物の供述から推理が始まります。
状況が二転三転し、その都度新鮮な驚きがあり、読者は推理を放棄してポアロに全て任せて素直に楽しもう!という気持ちにさせられる名作。見過ごしてしまいそうな小さな違和感や謎が、全てパズルのようにあるべき場所にはまり、真犯人がポアロによって明かされるラストは圧巻です。
賛否が分かれる衝撃トリック「アクロイド殺害事件」
発表当時は問題作として話題になり、クリスティの名を世に知らしめたのが「アクロイド殺人事件」。
衝撃のラストを読んだあと、もう一度、もう一度、と何度も読み返したくなる名作です。実はこの作品は序盤でひとつの違和感に気づくかどうかがポイント。未読の方は、違和感に気づけるかどうか、この秋ミステリーの女王クリスティに挑んでみるのも一興です。
ミス・マープルシリーズの傑作
ポアロとは違い、短編で存在感を発揮しているのがミス・マープル。小さな謎から連続殺人まであらゆる事件の解決に挑みます。
ミス・マープルの名推理が冴え渡る短編集「ミス・マープルと13の謎」
ミス・マープルが初めて登場するのは短編集。
毎週火曜日に数人で晩餐を共にしながら、誰か一人が事件のあらすじを話し、他のメンバーが真相を推理していく構成になっています。牧師や博士、弁護士や元刑事がいるその会で、いつも穏やかな微笑を浮かべて皆の推理を静かに聞き、ことも無げに真相を解き明かしてしまうのがミス・マープル。
クリスティ作品をまずは気楽に読んでみたいという人や、長編の読書が苦手な人にもおすすめの作品です。
ミス・マープルが本気で憎んだ犯人?「ポケットにライ麦を」
ミス・マープルはどんな人物も“犯罪をやりかねない”と思って推理に臨むため、事件を見る目はある意味冷淡です。誰もがお手上げだった難事件を解決した時ですら勝利に喜ぶ、といったシーンは描かれることがありません。
ただ、この「ポケットにライ麦を」のラストでは珍しく怒りや悲しみ、勝利の感情をあらわにします。常に穏やかなミス・マープルを本気で怒らせた犯人が誰か、ぜひ作品を読んで推理してみてください。
まとめ(最後に)
DNA鑑定などの科学捜査が一般的でなかった頃のミステリーは、名探偵たちが事実をひとつずつ積み重ねて事件を解決していきます。
派手な事件もスリリングな展開もありませんが、犯人が残した痕跡や、交わした会話、人間性から推理して、じわじわと真相にたどり着く物語の読後感は爽快です!
本屋さんで新品を手に取るのもいいですが、古本屋さんでもクリスティの著書は見つけられます。もちろん図書館でも借りることができます。
好きな場所でお気に入りの作品を見つけて、名探偵の世界にどっぷり浸る秋の夜長はいかがでしょうか?