一田憲子さんの大人になって着たい服
いつからか、それまで着てきた服が似合わなくなってきた、という経験はありませんか?それが世に言う「おしゃれ更年期」。多くの女性が同じ悩みを抱えています。どうすれば自分に似合う服を見つけられるのか『大人になったら着たい服』という人気シリーズを手がける、一田憲子さんに教わりました。
撮影/藤井優美子 取材/大野重和(レフトハンズ) 文/川分香織(レフトハンズ)
『大人になったら着たい服』という本を立ち上げたのは、40歳を過ぎたとき。その頃、何を着ても似合わなくなってしまい、おしゃれに悩むだけでなく、年を重ねるにつれて自分が枯れていってしまうのでは……と心理的にも不安になっていました。だから、おしゃれの先輩たちに人生観も含めて教わってみようと思ったんです。実際に取材をしてみたら、みなさんめちゃくちゃ前向きに生きていらして、「これなら私も年をとっても大丈夫だ!」と思えました。
おしゃれに関してみなさんに共通していたのは「普通でいい」ということ。それまでの私はブランド物にこだわり、ひと目でそれとわかるような凝ったデザインや変わったデザインを選びがちでした。でも、先輩方が選んでいたのは普通のシャツと普通のテーパードパンツだったのです。
ベーシックアイテムは組み合わせの幅が広くて、手持ちのワードローブを生かせるものばかり。普通のデザインの服を選んだら平凡に見えてしまうのでは? と心配していたのですが、決してそうはなりませんでした。先輩たちは、ちょっと袖をまくったり、パンツの裾をロールアップしたり、靴下や眼鏡、ピアスなどの小物で色を足したり、アクセントをつけることで、見事に普通の服をおしゃれに着こなしていたんです。それを目の当たりにして、「おしゃれの秘密は、着こなしにあったのか!」と初めて気がつきました。
ベーシックな服って、普遍的なものだと思っていませんか? ところが、あるセレクトショップのオーナーは「定番も時代に合わせて変わるもの」とおっしゃっていました。例えばチノパンも、同じものをはいているように見えて、3年前のチノパンと今年のチノパンでは太さも丈も違うと言うんです。定番服であってもバージョンアップして、絶えず入れ替えておくことが大事だったのです。時代の気分や自分に似合うものが変わったことを敏感に察知し、「これでいい」と思い込まないことが大切だと学びました。
『ひとつ着て完成ではなく、ちょっとずつの足し算でいい。
おしゃれの見せどころは、ほんのひとさじの工夫です』
一田 憲子
いちだ・のりこ●OLを経て編集プロダクションに転職。独立後、自ら企画・編集・執筆を手がける『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社)を立ち上げる。『天然生活』『暮らしのまんなか』『クレア』『LEE』などで執筆。全国を飛び回り、取材を行っている。
私自身『大人になったら着たい服』を立ち上げる前と後では、着る服が一変しました。どんどん普通になっていったんです。以前はブランドで選んでいたのですが、ブランド力でおしゃれに見せるということに限界が来るんですね。もう若さで着こなせるわけでもなければ、モテるという尺度もない。これまでおしゃれを考えるうえで基準としてきたことがどんどん合わなくなったときに気づいたのは、本当に似合うものを身につける意義。「自分らしさ」という新たな価値観を見出すことでした。
もちろん、自分らしさを見つけるまでには失敗もします。結局は着てみないとわからないものなんです。例えばAラインのワンピースは、華奢な人が着ると素敵だけれど、私みたいな大柄なタイプが着るとボリュームが出すぎてしまうというような発見がありました。ところが、ウエストマークをしてクラシカルな雰囲気に着てみたら、なんだかしっくりきました。すると褒められることも増えて、これが自分に似合うものだと気がつきました。そんなふうに、私はまだまだ学びの最中。女性にとって50代というのは、似合うものが変わってくる、ちょうど過渡期にあたるのかもしれませんね。
1. 首元のフリルやギャザーが可愛らしい「a piece of Library」の
ブラウスは、女度アップの鉄板アイテム。
2. 深めのタックがお尻やお腹をカバーしてくれるパンツ。
ゆったりながらもテーパードシルエットですっきり。
3. ショートヘアに映えるピアスはシンプルなものがお気に入り。
左・中/「mitome tsukasa」、右/「himie」
4. 黒やネイビーのコートには、大ぶりのブローチをポイントに。
左/「松林誠」、右/「MAMERON」
年をとってくると、Tシャツやカットソーだけだとだらしなく見えがちに。そこで力を発揮するのがシャツです。大人にとって一番大事なのは清潔感。シャツは清潔感ときちんと感を出すのに、もってこいのアイテムなんです。
私が50代になって選ぶようになったのは、ディテールにちょっとした女らしさのあるシャツ。タックやダーツ、ギャザーが入ったものが多いですね。それから便利なアイテムとしては、やはりワンピース。1枚着るだけで完成して悩まずに済むから、お出かけはワンピースと決めています。それも張り切り系のものではなく、日常の延長線で着られるもの。パンツのときと同じ靴で合わせられるというのが基準です。靴をあれこれと揃えなくてもいいですから。
「今日着ていく服がない!」から脱するには、おしゃれの制服化が究極の方法です。これまで160人を超える達人の取材を通してわかったのは、おしゃれな人こそスタイルを制服化しているということでした。私の場合はギャザーの寄ったシャツ、ゆったりしているけれどテーパードが綺麗なパンツ、そして1枚で着られるワンピース。それだけあれば十分どこでも行けてしまうんですね。
マイ制服を見つけるためには、これなら似合うという確かなものを手に入れることが大切。おしゃれな人のスタイルは、意外といつも変わりません。変わらない何かとは、その人のスタイルであり自分らしさなのです。
私と同世代の皆さんには、髪を切ることをおすすめします。実は私もずっとロングだったのですが、おしゃれな人がどなたもベリーショートで若々しくて、それに刺激されて切ってみたんです。するとスタイルが一変しました。何を着たらいいかわからなくなったときこそ、それまでの自分像を捨ててリセットしてみるのです。
一田さんのワードローブに欠かせないワンピースの新作から、今シーズンのおすすめをピックアップしていただきました。
起毛した生地が優しい印象を与える「HAVERSACK」のギャザーワンピースは羽織りとしても活躍。
大きくフレアするシルエットが女度を上げる一田さんモデルのワンピースは、上品な雰囲気が魅力。
おしゃれの達人に教わる、自分スタイルの作り方を記した『おしゃれの制服化「今日着ていく服がない!」から脱する究極の方法』と、夫と機嫌よく暮らしていくためのコツを記した『ムカついても、やっぱり夫婦で生きていく 夫と機嫌よく暮らす知恵』を各3名様にプレゼント!
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