インタビュー『大林千茱萸さん』 「映画」と「⾷」で 笑顔と⼈の輪をつなぐ
映画作家、文筆家、西洋食作法(国際儀礼)講師、【ホットサンド倶楽部】主宰と、多彩な活動をされる大林千茱萸さん。
映画と共に育った大林さんはまた、食の達人でもあります。
大林さんの人生に欠かせない大事なものについて伺います。
撮影/松本 健 取材・原稿/沼田美樹
―多方面でご活躍の大林さんですが、まずは「映画の人」の印象です。
大林 母のお腹にいた頃から映画を浴びていたので、私にとって映画は家族のようなもの。3歳から映画館に通い、11歳で父の映画の原案者となり、小学生から映画雑誌に投稿。映画と共に成長してきました。
―映画を仕事にするのは自然な流れだったんですね。
大林 仕事と意識するにはまだ幼かったので、好きで続けていたことが実は「仕事」だと後で分かりました。
―映画に救われた、ということは?
大林 それはもう数え切れないほど! 例えばフレッド・アステアの「恋愛準決勝戦」。落ち込んだときに見ると元気が出ます。恋をしたアステアが壁や天井をぐるぐる回って踊るシーンは「人は喜びを感じたときに無限の可能性を持てるんだ」と、クヨクヨするのがもったいないと思えてくる。映画は心の栄養、人生を彩る力があります。
―料理とマナーの講師、そして【ホットサンド倶楽部】部長。いろんな「食」へのアプローチがあります。
大林 子どもの頃から食いしん坊。でも意識が変わったのは12歳のとき。「昭和天皇の料理番」渡辺誠さんと出会い、食に対する認識が変わりました。師匠からは、食文化や西洋料理の食作法を教わり、人生を豊かにする食の在り方を学びました。
―それで、料理とマナーの講師を。
大林 食べることは楽しいけれど、そこに「識る」が加わったら、歓びも楽しみも大きく広がります。それを多くの人に伝えたい。作法を知ると、自分の食に対する向き合い方も変わるのですが、何より「相手を尊重する、思いやる」ことを学べます。マナーとは本来、食事をもっとすてきにおいしく、楽しむ所作なのです。
―相手を思う、ということについては、ホットサンドの活動でもそうしたご経験があると聞きました。
大林 災害に見舞われた熊本を訪ねボランティアで避難所の皆さんにホットサンドを振る舞ったときのこと。「久しぶりにあったかいものを食べた。あったかいっておいしいね。ありがとう」と涙を流して喜んでくださった方がいて、私も涙が出ました。食べ物の温もりが人を癒やし、明日への希望につながってゆくのだと、あらためて気づきました。
―「映画」と「食」という大林さんの2本の柱が一つに重なったのが、大分県の臼杵市を舞台にしたドキュメンタリー映画『100年ごはん』。
大林 市が給食を有機農産物に転換する際にお声掛けいただきました。実は私、がんを患ったことがあって、その際に食事を徹底的に見直し、学び直す機会があり、そのことが映画作りに役立ちました。臼杵市に4年間通い、生産者の方と会話を重ねてできた映画は、世界250カ所で上映され、今も上映され続けています。
―上映のスタイルがユニークです。
大林 映画館をはじめ、大きなホールからレストラン、美容室やお寺で上映したこともあります。上映会では毎回、その土地の食材で作った食事を共に囲む。見ると食べるを直結することで、「知る/学ぶ」を五臓六腑で体感できるスタイルです。
『 映画は、私にとって⼤切な家族のようなもの。
そして、⾷べることは⼈⽣の歓び 』
写真:父・大林宣彦さんとは、「一卵性親子」と称されたほど仲良しだったとか。
―今年、お父さまを亡くされました。
大林 父は2016年に余命3カ月の宣告を受けましたが、「映画を撮る」という強い意志がありました。それからは、映画を創りながら闘病・介護の日々。大変でしたが、本人の幸せは「映画」と共にある。1日でも長く、1本でも多く。その思いを大事に支えてきました。だから父は自分の人生をしっかり生きたと思うし、私たちは最期まで父を尊重しました。寂しいけれど、家族ができることを精一杯やり尽くせたことに感謝です。
―大林さんの、今後の目標は?
大林 これまでは「これは老後のお楽しみ」なんて笑っていましたが、コロナ禍で先のことが分からなくなった。だから「今できることは、今やる」「食べたいものは食べる」「大切な人には、すぐに会えなくてもせめて電話で声を聞く」。今を大切に重ねることが、すてきな未来につながると信じています。
- いつも身に着けている銀のスプーンのネックレス。
- 西洋食作法と美食のクラスのディプロム。
- スプーンとフォークをあしらったご自宅のシャンデリア。
- ご自慢のホットサンドグッズ。
大林 千茱萸
おおばやし・ちぐみ
●映画作家、文筆家、西洋食作法(国際儀礼)講師、【ホットサンド倶楽部】主宰。幼少期より映画と共に育つ。8歳から映画雑誌に投稿、文筆活動を始める。11歳で父・大林宣彦監督作品『HOUSE』原案を担当。監督作に『100年ごはん』。著書に『こんがり! ホットサンドレシピ100』(シンコーミュージック)、『未来へつなぐ食のバトン』(ちくまプリマー新書)、『ホットサンド倶楽部』(シンコーミュージック)。