2021.10.12 UP
おすすめ暮らしと生き方特集・連載

スペシャルインタビュー 中尾ミエさん

撮影/松本 健
取材・文/明滝 園

 

今楽しめることは今楽しまないと! 先延ばしはしない

 

テレビドラマや舞台で大活躍の中尾ミエさん。凜とした佇まいとハツラツとした姿に励まされる人も多いはず。

近年ではグラビアに挑戦するなど、ますますアクティブに活動しています。そんな中尾さんに、年齢にとらわれず、人生を楽しむコツなどを伺いました。

 

こだわりは持たず自分ができることを継続して行う

10代でデビューして以来、役者として、歌手としてずっと走り続けています。

「健康を維持する秘訣は?」とたまに聞かれますが、秘訣なんていうほどのことはしていないのです。

 

強いていうなら、よく寝て、よく食べて、よく働くことですね。睡眠は早寝早起き、食事は食材をバランスよく、決まった時間に三食いただく。

私はもともと自炊はほとんどしませんし、「毎日〇〇を必ず食べる」など、ルールを決めて自分を縛ることはあまりしません。

 

大切なのは、継続することではないでしょうか。つらいことや、無理をしていることは続かないうえに、自分自身が苦しくなるだけですから。

幸せは、自分を大切にしてこそ得られるもの。それならシンプルでよいので、できることをとことん継続していきたいと思います。

 

服選びは妹やプロにお任せしてファッションを堪能する

私はファッションにも、そこまでこだわりがないのが正直なところ。洋服もアクセサリーもメイクも、妹やプロの方に任せてばかり。

 

でも、そのほうが新しい発見があると思うのです。ファッションやメイクの流行は変化していくものでしょ?

自分の好みにこだわっていると、時代にそぐわなくなってしまうし、似たような服ばかり選びがちに。

それなら、人が選んでくださったものを「こんな服もあるのね!」とフレキシブルに着こなしたいです。

 

グレイヘアもそう。白髪が出始めてきたときは染めていました。

でも、だんだん染めるのが面倒になってしまって(笑)。「白髪は染めなきゃだめ」なんてこだわり、手放したらずっとラクになりました。年齢は一方向にしか進まないし、白髪もどんどん増えていく。それならば発想を変えて黒髪を白髪に合わせようと、今では黒髪を白く染めたりしてヘアカラーのバランスを整えています。

 

見た目を若く見せることに、私はあまり興味がありません。それよりも、若い人にはできないことをして、自分の価値を出していきたいですね。

慣習や価値観を更新していく これは私たち世代の役目

私がデビューした当時は、昔の慣習や作法に厳しい年配の方がたくさんいました。

ひと昔前なら、私を見て「いい歳をして肌を見せている」などと眉をひそめる人もいたでしょう。でも、古い慣習を何でも守り続けるのが正しいとは限らない。

 

例えば今年、テレビドラマ『その女、ジルバ』(※1)に、着物を着たスナックのチーママ役で出演しました。

普段、私は着物をまったく着ないのですが、役づくりで着こなしの提案を少ししました。ヒールの高いサンダルを履いたり、大きなイヤリングを付けたり。着物の作法に厳格な方が見たら、驚くかもしれません。

でもそれぐらい崩したほうがドラマの世界観にも合っていましたし、着ている私も心がはずみました。

 

これはテレビドラマの世界に限った話ではなく、公式の場に参加するときの格好もそうだと思うのです。

守るべきマナーは理解しつつも、細かい作法などより、その場に臨む気持ちや、自分自身に負担のかかる服装をしない、というほうが大事ではないでしょうか。

今は私の世代が、いわば「元気な高齢者のリーダー」。古いしきたりや慣習にとらわれず、自由に人生を謳歌する姿を若い世代の人にも見ていただきたいです。

 

2019年には、グラビアに挑戦しました(※2)。当時、ミュージカル出演のために1年半かけて体を鍛えていたのですが、せっかくだから記念写真におさめたいと考え、自分で企画を出版社などに持ち込み、撮影してくれるカメラマンも自ら探しました。

願望を言葉にすることは、夢の実現への第一歩。よい意味でタガがはずれると挑戦したいことがどんどん増えていくから、楽しいんですよ。

大切なのは周りがどうかより、自分がどう生きたいか。みんなと足並みをそろえる必要は、必ずしもないと私は考えます。


※1 高齢熟女バーを舞台に繰り広げられるヒューマンエンターテインメント。2021年1月~3月に放送されていた東海テレビ・フジテレビ系全国ネット「オトナの土ドラ」シリーズの第31弾
※2 2019年9月27日発売の『週刊現代』(講談社)でグラビアを披露

 

「汗かけ、恥かけ、金かけて」が習い事のモットー

年齢を重ねてから、いろいろな習い事にトライしてきました。

水泳、書道、フラワーアレンジメント、俳句など、興味のあるもの、楽しめることは先延ばししないのが私の主義。仕事より趣味のほうが忙しいかもしれませんね(笑)。

仕事の合間に時間をつくるのは苦ではなく、むしろ計画的に時間を使えてよいことだと思っています。

 

私が習い事をするときは、「汗かけ、恥かけ、金かけて」を心掛けています。時間も体力もお金もかけてやるのですから、「元はとらなきゃ!」と。

そして、得たものを仕事に還元しないと、それこそもったいないですよね。身に付けたぶん、「私はこんなことができますよ」と自ら仕事場で提案できますし、直接結びつかなくてもいいのです。

仕事で泳ぐことがないとしても、それはそれで構わない。泳がないと意味がないわけではなく、水泳によって健康な体を得て、その体でよい仕事につながるのですから。

 

そして、健康な体は、健全な精神の源になるのではないでしょうか。自然と考え方がポジティブになり、何か困ったことがあっても、「何とかなる」と思えるから不思議なもの。

今は水泳はお休み中で、代わりにジムに通って体を鍛えています。今年の目標はおなかを割ること! 体力なら、若い人にはまだまだ負けませんよ(笑)。

 

しかも、友だちと一緒に習い事をすれば、さらに面白くなります。

私はすぐにチームをつくるんですよ。水泳は「チーム・ミエ」、俳句は「微笑(えみ)の会」、近所の女性たちと公園で行っている体操は「ミエ道場」とか。連帯感が生まれて、 行く気になれない日でも「みんながいるから」と思えば行かないわけにはいかないな、と。

うまく結果が出なかったときは、「もう一度頑張れ!」と声をかけてくれる仲間のおかげで、習い事に取り組む気持ちもより真剣になるのです。

 

最近、「ミエ道場」の仲間たちから体操の効果が出てきたという話を聞きました。

肩こりがよくなったとか、駅の階段を駆け上がれた、とか。仲間の成果を聞くのはうれしいですし、よい刺激になります。

「習い事で得たものは仕事につながる」と中尾さん
50歳のとき、ほとんど泳げない状態で始めた水泳。1年後には「ウーマンズ・マスターズ水泳競技大会」に出場。年々記録を伸ばし、世界大会に出場したこともあります。
「微笑の会」と名付けられている俳句の会。20人ほどのメンバーで気ままに開催し、思い思いに詠んだ句を発表しています。

年を重ねてからの女友だちとは「距離感」がカギ

一緒に習い事をする女友だちはいるけれど、友だち自体はたくさんいなくてよいと思っています。

いくら仲のよい友だちであっても、それぞれの生活があるし、相手の一から十までを知って付き合う必要はない。あまり深入りはせず、お互いにとって快適な「距離感」を尊重します。

 

変に期待をしたり、逆にされてしまうと、それが叶えられなかったときに「裏切られた」というあらぬ解釈につながってしまうこともありますから。

裏切ったわけではなく、誰しも自分の生活が優先なんだ、と心にとどめておくことは、大人同士の付き合いには大切だと思います。

 

会う頻度も同じこと。デビュー以来、ずっとお付き合いのある女友だちがいますが、普段はまったく連絡をとりません。

でも、お互いに何かあったときはすぐに駆け付けますし、数年ぶりに再会したら10代の頃にすぐタイムスリップします。

年月をかけてお互いの環境や考え方などが変わっても、共有しているものがあれば友だちであることに変わりはないのです。

心地よい高齢者施設や、デイサービスが増えてほしい

過去に、高齢者施設をテーマに『ヘルパーズ! ~あなたがいる風景~』(※3)と『ザ・デイサービス・ショウ』(※4)というミュージカルを企画・プロデュースし、私自身も出演しました。

日本の社会では年齢を重ねることや、高齢者施設に対する印象がネガティブである傾向がありますよね。誰しもが最期まで、自分らしく生き抜きたいと思うのは自然なこと。それならば「こんなところがあったら入ってみたい!」と私自身が思えるような、理想的な高齢者施設を舞台の上でつくってみたいと考えました。

 

『ヘルパーズ! ~あなたがいる風景~』を企画したときは、まったく不安がなかったとは言えません。

高齢者施設のリアルをどのように描くか、それが受け入れられるか。よいことばかりを描いてもリアリティはないので、そのバランスに苦慮しました。

 

『ザ・デイサービス・ショウ』は、デイサービスに来る高齢者がロックコンサートの開催を目標に、楽器の練習に励むストーリー。

最初は指一本でキーボードを弾いていた人が、最後はアレンジを加えるぐらいにまで上達していました。全国を回っているときは途中でお花見をしたり、メンバーの笑顔が絶えなくて。

この舞台自体がデイサービスの役割を果たしていると思いました。心地よい施設がないなら、つくればいい。そのほうが、歳を重ねることへの不安も少なくなるでしょ?

 

私自身、あと5年で80歳です。自分で考え、動けるのはもう数年だと思っています。高齢者ですから、今後快適に暮らしていける場所も考えるようになってきました。

「存分に人生を満喫した」と思う一方、まだまだ働きたい気持ちは衰えていません。人は誰でも、誰かの、何かの役に立っていると思うのです。

体が動く限りは働いて、悩むのは食べて寝て余った時間で十分。明日は何をしようと考えるだけで、ワクワクしてきますね。

 

※3 2008年初演。大スター・矢沢マリ子(中尾ミエ)は、ひょんなことから介護ヘルパーを目指すことになり、ヘルパー養成学校に入学する。そこで繰り広げられる人々との触れ合いを描いたストーリー。
※4 2015年初演。かつての大スター・矢沢マリ子(中尾ミエ)がデイサービスを訪問し、ミニコンサートを開催するうちに施設の利用者でコンサートを実現しようと奮闘する姿を描く。

中尾ミエさん

なかお・みえ●1946年生まれ。歌手、女優。園まり、伊東ゆかりと「スパーク3人娘」を結成。さらに16歳のときに発売した『可愛いベイビー』が100万枚を売る大ヒットを記録する。多数の映画やテレビドラマで活躍する他、『ヘルパーズ! 〜あなたがいる風景〜』『ザ・デイサービス・ショウ』など、自ら舞台もプロデュースしている。

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