【婦人科医監修】更年期のもやもや・イライラとの向き合い方
女性ホルモンの減少によって心と体のアップダウンが起こりやすくなる更年期。
時には、家族や友人、職場などさまざまな人間関係に影響してしまうこともあります。
更年期の心のお悩みとコミュニケーションについて、産婦人科医の高尾美穂先生にお話をお聞きしました。
ホルモンだけが原因じゃない 心の不調は”考え方”が大切
更年期には、抗うつ作用のあるエストロゲン、抗不安作用のあるプロゲステロンなどの女性ホルモンが徐々に減少していくため、人によってうつっぽくなったり、不安になりやすくなったりすることがあります。産婦人科医の高尾美穂先生は、更年期を穏やかに過ごすためには、『周囲の人の理解』と『本人の意識』が大切だと話します。
「まず、周りに更年期という時期の存在を知ってもらう。そして、更年期の不調が自分にも起きるかもしれない、という想像力を持つことです」。
また、普段からネガティブで悲観的な考えの人は、更年期が終わった後も不安感が続くことが多いと高尾先生は言います。
「更年期はいつか終わるもの。ただ、自分の考え方で自分自身を追い込んでしまう人は、更年期後も気持ちの落ち込みが続きます。年齢を重ねると嫌なこと、できなくなることもありますが、それはみんな同じ。許容範囲を広くして、『これはこれでありだよね』と、普段の考え方を変えることが大切です。それに歳をとったからこそ楽しめること、うれしいこともあります。仕事で10年目と1年目で信頼度が違うように、若い頃になかったものを、今手にしていることもある。冷静に自分を振り返って、『長生きもいいかも』と思えるようになってほしいですね」
高尾美穂先生が答える! みんなの更年期あるある相談室
更年期につらいのは本人だけじゃない!? 心と体がゆらぐ時期は職場や家族など身近な人に影響することも。
今回はさまざまな立場の方から寄せられた、更年期に関するお悩み・疑問について高尾先生が回答します。
Q:職場の上司からのお悩み
部下の体調が悪く心配です。部下の同期から聞いたところ、どうやら更年期の症状がつらいようです。何かサポートしたいのですが、自分は男で上司。なによりデリケートなことなので、どう声をかければいいのかわかりません。
A:自分なら誰に相談するか想像してみましょう。性別が違う場合は特に注意が必要です!
体調の不安やプライベートな話は、信頼関係がないとできないもの。また、信頼関係があったとしても、性別の違いがある場合は特にハラスメントと受け取る人もいます。心配であれば、同じ女性で立場も近い同僚の方に、「彼女、調子が悪そうに見えるから、声をかけてくれる?」とお願いしてみてください。体調が悪い、という表現はいろいろな症状を包み込み、「見える」と主観で話すことで、自分からはそう見えるというメッセージが伝えられます。もし何かリアクションがあったら、「何かできることない?しんどかったら誰にでもいいから必ず言ってね」と言葉をかけてみましょう。
Q:夫からのお悩み
最近妻の感情の起伏が大きく、つい、こっちまでイライラしてしまいます。「更年期だからしょうがないじゃない」と本人は言いますが、ささいな事で怒ったり、泣いたりすることが増え、一緒に生活していると自分もおかしくなりそうです。どうにかできないものでしょうか。
A:病院に行って専門家のアドバイスを受けてみて。受診のきっかけはなんでもOK。一番シンプルなのは生理です。
まずは婦人科医などの専門家に、体調について相談したことがあるか聞いてみましょう。もしかしたら病院を受診するタイミングがなくて困っているのかもしれません。なかなか受診のきっかけがないと感じているなら、ぜひ生理をきっかけに婦人科を受診をするよう声をかけてみてください。例えば、順調に来ていた生理が不定期になったなど、生理不順が理由でも大丈夫。そのときに、心の不調についても相談してみましょう。ただし、婦人科医にはそれぞれ専門があり、更年期の専門家ではない婦人科医もいます。この先生はちょっと違うな…と感じたら、別の病院や医師に相談してみて大丈夫ですよ。
Q:夫からのお悩み
妻の体調が悪そうだったので、軽く「もしかして更年期?」と聞いたら、妻が突然怒り始めました。まさか、そんな反応になるとは思わず、とても驚きました。どんな風に声をかければよかったのでしょうか。
A:更年期は特に気持ちに波のある時期。言い方とタイミングが重要です。
“更年期”というキーワードが奥さんにとってはひっかかる言葉だったのかもしれませんね。また、調子がいいときは余裕を持って受け流せる言葉も、無理をしている時には今回のような反応になってしまうこともあります。例えば「体調悪そうだけど、何か思い当たることある?」と聞いて、本人から話すきっかけをつくるのも一つの方法です。「そうなのよね、あなたもそう思う?」と会話が広がっていたかもしれません。更年期はいつも以上に、言い回しや声掛けのタイミング、相手の調子の良し悪しで反応も変わってくるものです。あまり落ち込み過ぎず、それぐらい波のある時期だと理解しましょう。
Q:職場の同僚からのお悩み
近頃、同僚が更年期症状を理由に、仕事を早退したり休んだりしています。私も更年期を経験していますが、症状がつらくても仕事を休んだことはありませんでした。個人差があるにしても、同僚は少し甘え過ぎではないかと、日々モヤモヤしてしまいます。
A:同性でも経験は人それぞれ。職場なら組織に問題アリかも。
同性だからといって、“わかったような気持ち”になっていませんか? 人には多様性があります。同性でも自分とは違う経験をする人がいることを想像することが大切です。また、仕事場であれば、会社や組織の準備不足という問題もあります。残業が多い、人員が足りていないなど、働く人たちが“お互いさま”と思えない組織だと、誰かが休んで自分にしわ寄せがくれば不満を感じることもあります。普段からお互いに助け合おうと思える組織づくりができていれば、女性の体調だけでなく、忌引きや親の介護、時短勤務など、さまざまな人の働き方をフォローすることができます。
Q:子どもからのお悩み
数年前から母に更年期症状が出始めました。以前から婦人科の受診を勧めていますが、「病気でもないのに、わざわざ病院なんて」とまったく聞く耳を持ちません。病院に行かせるにはどう説得すればいいでしょうか?
A:説得は逆効果になることも!一緒に取り組む姿勢が大切に。
現時点で病院に行きたくない人を無理に行かせようとするのは難しいです。自分は大丈夫と思っているのに、病院に行かないとダメ、どうして行っていないのかと責められると、攻撃されているように感じて、逆に抵抗感が強くなることもあります。声をかけるなら、一緒に解決しようという姿勢を見せることが大事。「できることがあるかもしれないから、専門家の先生の意見を聞いてみたら?」と提案し、病院や先生を一緒に探してみてはいかがですか。受診の予約をとってしまうのもありです。そこまでして初めて、お母さまも一緒に取り組んでくれていると感じるのではないでしょうか。
高尾美穂先生
たかお・みほ●産婦人科医・医学博士・婦人科スポーツドクター。ヨガの指導者資格も保有。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長を務める。
イラスト/林 ユミ