スペシャルインタビュー 南 果歩さん
撮影/神尾典行 ヘアメイク/鈴木將夫 スタイリング/多木成美 取材・文/中村さやか
チャーミングでやわらかな笑顔が素敵な室井滋さん。
年齢を重ね、一緒に過ごした祖母を思い出す機会が増えたといいます。
背伸びをしない等身大の日常について、お話しいただきました。
コロナ禍で筋トレを開始 心は体についてくる
2020年の春ごろから、コロナ禍で心身を整えるために筋力トレーニングを始めたんです。今では腹筋に縦線が入るほど。体を整えると、心もそれについてくるんですよね。私は精神的に成熟しきっていないので、心だけを健やかに保とうとするのが難しい。コロナで仕事が中止になったときにも気分が滅入らなかったのは、やっぱり体を鍛えていたおかげでしょうね。7年前には人間ドックで乳がんが見つかり、手術後もつらい闘病生活を送りました。それからは健康を一番の柱に据えて、日々を過ごしています。
家での食生活では、基本的にオーガニックの食材を選んでいて、発酵食品もよく食べます。なるべくグルテンフリーを心掛けてもいます。でも、外出先では別です。美味しそうな物を見かけると買って帰ることもありますし、外ではなんでも食べますよ。お酒だって飲みますし、夜中にラーメンを食べてしまうことも。厳し過ぎると息が詰まるので、体に良いことを、〝ゆるーく、それなりに〟取り入れるのが継続のコツだと思っています。
予期せぬ出来事に悩んだらとりあえず動いてみる
闘病生活の他にも、過去に2度の離婚を経験しました。つらい経験を通してわかったことは、予期せぬことは誰にでも起こるということ。それは抗いようがないということ。そして、まずは現状を受け入れるしかありません。何かが起きたら、そのときにいろいろと考えればいいし、起きてもいないことを心配するのもムダだと思っています。私と同世代の方には、さまざまな悩みがあると思いますが、いま自分が興味を持っていることに目を向けて、どうやってうまく社会とつながれるかにフォーカスしたほうがいいと思いますね。
私は人生の岐路に立たされたとき、10年後の自分を想定して、あの時の自分の判断は間違っていなかったと思えるようにしたい、と決めてきました。これは直感かもしれません。予期せぬことが起きたとき、ほんの少しだけでも動いてみると、見える景色も関わる人も変わります。動くことは本当に大事だと思いしたね。あとは、問題やその場所から〝逃げる〟こともおすすめします。逃げるのはネガティブな意味合いだけではなくて、これも動くということ。悩みがある方には、とにかく「留まるな」と伝えたいです。
写真左:旅が好きです。ニューヨークはときどき訪れたくなる街。毎日ブロードウェイを見たり美術館へ行ったりと、寝る時間を惜しんで動き回ります。
右:トイプードルのシャンティー(右)とジョイ(左)は親子です。シャンティーが産んだ6匹の子犬のうち、ジョイを残して他の子たちは知り合いのおうちへ。毎日ジョイをなめてあげるのがシャンティーの日課。ホント素敵な母親なんです。
そうは言いながらも、私も心が弱った時期がありました。でも一番の支えになったのは自分自身。こんなところで終わるはずの私じゃない、ここが人生のゴールなんかじゃないと、自分を信じたんです。そうできたのは、幼少期から今に至るまでのすべての経験のおかげでしょうね。父の会社が倒産して5人姉妹で支え合ったこと、自分の人生を生きるために親元を離れた過去など、さまざまな出来事が今の私をかたちづくっていると思います。
時とともに、苦しくつらい思いこそ、もっとも必要な贈り物だったのではと思うようになってきました。つらい思いを乗り越えると、まるで生まれ変わったように、その後の喜びが2倍にも3倍にも感じられるんです。あれと同じかな。2年前にカナダで仕事があったとき、渡航直後に2週間の隔離生活をしたんです。部屋に一人きりでこもる孤独な日々。隔離明けは、風も鳥のさえずりも、車の音ですら新鮮に感じられました。我慢を重ねた後は、ものすごく自分の感度が磨かれていたんですね。
息子夫婦と同居しながらおひとりさま時間も楽しむ
東日本大震災のときに、車に救援物資を積んで現地を回りました。東北や熊本の被災地で、読み聞かせの活動を行うようになったのはそれから。2022年12月には、ずっと昔に書き溜めていた自作の詩を絵本化した『一生ぶんの だっこ』も出版しました。クマの親子の物語です。絵本の中に出てくる「かなしいときはないてもいいんだよ。おとこのこもおんなのこもかんけいないよ」という言葉は、幼いころの息子にかけていた言葉です。性別にしばられずに物事を見てほしいという願いは、当時の子育て中からありました。
その息子も現在は27歳。結婚し、私と同じ屋根の下に暮らしています。私はお嫁さんのことは「娘」と紹介しています。仲の良さに本当の親子みたいだと言われることも。ですが、3人家族だとは思わずに別所帯という線引きをしています。一緒にいるときは食卓を囲むし、聞かれれば仕事上のアドバイスもしますが、こちらからは聞きません。たまに、気にかかることもあるんですけどね(笑)。でもそれが、平和に暮らすための必要条件なんじゃないでしょうか。
自分は自分、子どもは子どもと考え、おひとりさま時間を楽しんでいます。若いころから旅行が好きで、仕事の合間を縫っては一人で海外旅行をしてきました。友だちの友だちという、面識のない人の家に泊めてもらうこともざら。昨年秋に仕事でアメリカに滞在しましたが、今回も友だちの親戚の家に滞在させてもらいました。日系家庭で、英語しか通じない環境でのホームステイでしたが、行く前から楽しみしかありませんでした。他に自分の幸せな時間といったら、季節の美味しいものを食べているときですね。犬を2匹飼っているので、一緒に遊ぶ時間も至福です。気心の知れた人とおしゃべりする時間もそうだし、仕事を終えた瞬間も。日常の中で幸せを見つけています。
自分の一番の強みは人と比べないことだと思っています。他人が何を言っても気にならないし、エゴサーチもしないから心は健全。役のオーディションを受けて落ちたとしても、その役に合わなかったんだろうな、程度にしか思いません。私はいま59歳ですが、年齢も全然気にしてないです。美容に関しても、お手入れは化粧水とオイルくらい。海外の女優さんを見ると、しわがいっぱいあるじゃないですか。いい年の取り方をしているなと思いますよ。しわや白髪が増えずに、ずっと同じ見た目だったらつまらない。変わらないと面白くないじゃないですか。40歳だから、50歳だからこうあらねばというのもありませんでした。他人と比較せずに、自分なりの年の重ね方をすればいいと思っています。自分をどう生きようか。そんなふうに自分らしい時を過ごしながら生きるほうが、人生楽しいと思うんですよね。
南 果歩さんの最新作は絵本『一生ぶんの だっこ』
文:南 果歩 絵:ダンクウェル
¥1,650/講談社
2011年の東日本大震災以降、東北や熊本などの被災地に向けて、絵本の読み聞かせを続けている南 果歩さん。本作はコロナ禍で朗読をしていた詩をもとに作成した絵本です。絵はアーティストのダンクウェルさんが担当。
南 果歩さん
みなみ・かほ●1964年生まれ。女優。短大の演劇科在学中に、映画『伽倻子のために』(84年)で主演デビュー。以降、映画やテレビ、舞台などに数多く出演する。『夢見通りの人々』(89年)で、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。近著に『乙女オバさん』(小学館)ほか。
ニット、パンツともにマーク·ケイン、靴 マレーラ/すべて三喜商事 ☎03-3470-8233 イヤーカフ ヴァンドームブティック/ヴァンドームブティック 伊勢丹新宿店 ☎03-3351-3521 ネックレス、リングともにヴァンドーム青山/ヴァンドーム青山本店 ☎03-3409-2355