スペシャルインタビュー 木村 多江さん
撮影/神尾典行 ヘアメイク/土谷郁子 スタイリング/成子美穂 取材・文/中村さやか 構成/黒澤あすか
やわらかくほほ笑みながら、ふわっと包み込むような声で話す木村多江さん。
時に悩み、落ち込みながらも、前を向く方法を探してきたといいます。
新しいことに向き合う姿勢や日々の幸せの見つけ方などについて教えていただきました。
保守的にならずに挑戦
祖母のようになりたい
40歳を迎えたころ、ふと保守的になろうとしている自分に気付きました。保守的な気配が出始めたのは、暮らしの面。なんとなく生活は安定しているし、今のままでいいやと思うことが増えてきて。この気持ちはきっと年々大きくなっていくに違いない、キケン!と感じたんです。それから毎年、何か目標を立てて挑戦していきたいと思うようになって。着物姿の役の所作を身につけるため、30年ほど前から日本舞踊のお稽古を続けているんですが、昨年の発表会では「藤娘」という演目に挑戦しました。いつも、今の体力でできる一番大変な演目を選んでいて、4年ほど前には「春興鏡獅子」に挑戦。歌舞伎の連獅子と同じ衣装で、長い毛のカツラは3㎏、着物は10㎏もあるんです。練習から体に重りをつけて体力的に追い込み、本番では1日で2㎏痩せました。
役者って、役を演じていても自分が出てしまうんです。話をしたことがない相手でも、一緒にお芝居をすればお互いの性格や人間性のようなものが伝わります。だからこそ、自分の成長を止めてしまうのは怖いなと思って。何かに挑戦する時、1歩を踏み出すのは大変ですが、1㎝でも足が前に出ればいいと思えば、少し気持ちがラクだと思います。
人生の先輩でキラキラ輝いている方たちは、努力と思わずに成長されているんですよね。102歳で亡くなった私の祖母も90歳過ぎまで書道をしたり、沖縄へホエールウォッチングに出かけたり。「多江ちゃん、お仕事でキムタク(木村拓哉さん)には会わないの? おばあちゃん大好きなのよ」なんて話したりして(笑)。ずっと好奇心や成長欲を持っていた祖母のように、私もかっこよく歳を重ねていきたいと思っています。
美容や健康で大事なことは悪いものを外に〝出す〟こと
家のことや仕事で忙しく、空き時間もずっとセリフを暗記しているので、常に受験生のような感覚です。でも心が波立つのはすごく嫌だなと思っていて、今は若いころよりも自分を癒す時間を増やしています。ジムや酵素風呂に行ってデトックスすることで、体も心も元気に保つようにしています。
以前は美容や健康のために、サプリなど体に良いものを〝入れる〟ことばかり考えがちでしたが、最近は悪いものを外に〝出す〟ことこそ重要じゃないかと考えるようになりました。今はマッサージにもこまめに行き、はり治療で自然治癒力を上げるようなメンテナンスが多くなりました。食べ物は、春には山菜などの苦い野菜など、季節のものを食べるようにしています。旬のものを食べるのは人間本来のサイクルだし、贅沢で豊かなことだと思うので。私、44歳の時に野菜ソムリエの資格を取ったんです。季節の野菜をあまり知らないまま大人になったのが、ちょっと恥ずかしいと感じて。
写真左:舞茸と牛肉を入れた我が家の芋煮です。芋煮は夫の故郷・山形産のもの。山形では10月下旬に「悪戸(あくど)いも」という珍しいサトイモが採れますが、粘りがあってひと味違ったおいしさです。
右:オクラにナス、ゴーヤにミョウガ…。夫の実家の庭では、義父が趣味でいろいろな野菜を作っているんです。朝に収穫したものを、そのまま朝食でいただけるのが幸せです。
女優の仕事は華やかだと思われるかもしれませんが、年間300日くらいはロケ弁なんです。しかも揚げ物が多くて、野菜はほぼゼロ。1日の野菜摂取量の目標は350gと言われていますから、70gの野菜の小鉢を5皿食べなきゃと思うと、なかなか難しいんですよね。でも資格を取ったことで、家の食事でどうやって野菜を補おうか、と具体的に意識できるようになりました。
精神的な面では、普段からあまりネガティブなことは言わないようにしています。良いことを口に出すようにして、愚痴を言うにしても明るく話します (笑)。悪い言葉を吐くと自分に返ってくる気がするし、自分自身を汚しているようにも感じるんです。昔は基本的にネガティブで、いつも何かを悔やんでいました。なんであんな芝居になってしまったのかと、放映後に同じ芝居をずっと練習していたこともあります。でも悩んでいる時間がもったいないと感じるようになって。それに眉間のシワをつくりたくないですしね。何かに悩んだ時、人に嫌な気持ちにさせられた時、怒りでシワまでできたらもっと嫌ですよね(笑)。どうせ年々増えるなら笑いジワがいい。嫌なことがあっても「いい勉強をさせていただきました、ありがとうございます」と言って、終わりにするんです。
嫌なことは、感謝をしてリセットするのがすごく大事。寝る前に嫌な事を思い出したら、腹に落ちるまで繰り返し「ありがとう」と口にするんです。腹が立ったことに対して歯を食いしばって言うんですが、200回くらいになると穏やかに言えるようになって。だいぶ時間がかかりますけど(笑) 。でも、そうすると次の日に嫌な気持ちを持ち越さず、心穏やかでいられます。
自分で幸せをつくるために小さな感動を見つけ続ける
今は家族で楽しく暮らしていますが、結婚してもしなくても、誰しも人生には必ず修行があって、幸せは自分次第だと思っています。2008年に映画『ぐるりのこと。』で、悲しみを乗り越えながら絆を深めていく夫婦を演じました。劇中の夫のように、妻の手を離さないでいてくれる人を探すって、すごく難しいことですよね。でも役を演じてみて、手を離されてもいいから、自分は相手の手を離すことのない人間になりたいと思ったんです。もし相手が去ったとしても、自分にとって財産になるし、それでいいのかなと思って。
自分で幸せをつくるために必要なのは、ささやかなことにも感動する力なのかな。私は出産時に体調を崩して半年以上入院したんです。「今日もいつも通りの朝が来た! 赤ちゃんが無事でよかった!」と感謝の毎日でした。病室から院内のコンビニに行くのにも、ゆっくりとしか歩けないので往復40分もかかって。そこで、新商品を見つけたりすると、ありがとう~! 感動~! って、すごく嬉しくて(笑) 。小さな喜びを大切に思うことが、いかに大事かと気が付きました。幸せのハードルを下げると、こんなにも喜びを感じられるんだって。
きっと、日常のなかで幸せなことっていっぱいあるんです。忙しいと通り過ぎてしまいがちですが、そこをいちいち拾っていく。すると、ちょっと心が温まったり、潤ったりするんです。そのちょっとに気付いて小さな感動を見つけ続けていくことが、自分を生きやすくしてくれるし、人生においてとても大切なんだと感じています。
木村多江さんのご出演情報
NHK Eテレ「木村多江の、いまさらですが…」
初回放送日:4月24日(月) 19:30スタート(予定)
人生100年時代で大人の学び直しが注目される今、いまさら人には聞くのが恥ずかしい高校生レベルの知識を紹介する番組。木村多江さんが編集長をつとめる架空の「大人のための学び直しアプリ開発プロジェクト」を舞台に、知識をアップデートしていきます。
木村多江さん
きむら・たえ●1971年生まれ。学生時代から舞台活動を始め、96年ドラマデビュー。以降テレビ、舞台、映画で活躍。幅広い演技力は高く評価されており、あらゆる世代から注目され続けている。2023年4月からレギュラー放送のEテレ「木村多江の、いまさらですが…」ではMCを務める。
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