吉田 羊さん「自己肯定感の低さがモチベーションの源」
なでしこ模様の着物に、黒いハットとレースの袖が新鮮な着こなしの吉田羊さん。普段から着物に親しみ、夏には初のフォトエッセイも出版。着物との出合いから仕事観に至るまでお話を伺いました。
趣味はアンティーク着物
友達の言葉に目からうろこ
着物が趣味で、普段からアンティーク着物を楽しんでいます。よく人からは「着付けが難しいし、お金もかかるでしょ」と言われますが、実はそんなことないんです。着物に手持ちのパンプスを合わせても、リボンを帯締め代わりにしてもよし。私はアンティーク着物と呼ばれる、明治や大正、昭和につくられた着物が好きなんですが、当時の人の体型に合わせて袖丈が短くつくられているので、それを補うために手袋やブーツを合わせたりもします。着物って実はこんなに自由で、どの人も楽しく着られるよと伝えたくて、7月に着物のコーディネートを提案するフォトエッセイ『ヒツジヒツジ』(宝島社)を出版しました。着物を普段着ととらえていただきたくて、八百屋の店先や美術館など日常風景の中で撮影した写真も載せています。
着物にハマったのは20代前半の頃。友人に浴衣でライブに行かないかと誘われたのがきっかけでした。浴衣はあるけれど道具がないと断ろうとしたら、「あるもので代用すればいいよ」とトイレットペーパーの芯に紐を通して帯枕をつくってくれたんです。目からうろこがボロボロ落ちまくって、一気に着物へのハードルが下がり、どんどんのめり込んでいきました。それからは、ネットで購入した麻雀パイに金具を付けて帯留めを手づくりしたりして、知恵や工夫で広がる着物の楽しさを満喫しています。
持っている着物は、浴衣を含めて40枚ほど。自分でお店に足を運んで掘り出し物を見つけるのが喜びです。この前あった着物の催事では、雨の中を早朝から2時間並んだのですが、お目当ての品は他の人の手に…。「ご縁があってよかったね」と思いつつ、やっぱり悔しい気持ちもあります(笑)。
着物は歳を重ねた体にも似合うので、年代が上の方にもおすすめです。毎日の洋服選びの延長に着物があると、人生に選択肢がふえたような喜びがあるんです。着物を着ると会う方も喜んでくださって、こんなにわかりやすく相手に愛情表現できる衣服はないと思います。最近は温暖化で季節の境目がわかりにくくなっていますが、「冷やし中華、始めました」の貼り紙のごとく、季節ならではの着物の柄に四季の移ろいを見つけています。
温活と腸活を意識した生活
「やっぱり一人暮らしが楽」
季節の楽しみと言えば、食い意地が張っている私が秋に思い浮かべるのは、芋掘りにキノコ狩り。山に行かずとも、キノコを食すことも「キノコ狩り」と呼んでいます(笑)。食べ物では納豆とキムチが大好きで、冷蔵庫に常備しています。納豆の協同組合から「納豆クイーン」の称号をいただいたこともあるんですよ。故郷の福岡県から上京したとき、スーパーの納豆コーナーの充実度には感激しました。
日々の生活では、発酵食品を多く食べて腸活を意識しつつ、温活も大事にしています。家では、夏でも靴型をした足用の湯たんぽにお湯を入れて履いています。2年近く飲み続けているハーブティーは、季節や体調に合わせてお店でブレンドしてもらったもの。体を温めるものや、美容によいものなど、35種類のハーブが配合されています。
最近は、歳を重ねてだんだん代謝が落ちているのか、やせにくくなってきました。でもよく考えたら「そうだ、私運動してないわ」って気付いて(笑)。4年前に急に思い立って、ランニングとジム通いを始めました。毎朝4キロの道のりを25分くらいで走っています。実は今朝も走ってきたんです。私は生来飽き性なので、長く続けること自体が大事。仕事で帰りが遅くなった翌朝などは走るのをやめて、自分が嫌にならないペースで続けるようにしています。
くつろぎの時間を過ごす家は、家具をヨーロピアンアンティークでそろえたこだわりの空間です。他人の趣味が入る隙は1ミリもないので、もしこの先パートナーができて一緒に住むことになっても、体一つで来てくださいという感じです(笑)。昔は結婚にも興味がありましたが、一人暮らしをして30年目なので、一人のほうが楽だという思考になってしまいました。「ました」って、もう完了形ですね(苦笑)。
うちの両親はすごく仲のよい夫婦だったんです。母は79歳で旅立ちましたが、父は母の遺影に季節ごとの帽子をかぶせてあげて、「母さん、おはよう」って毎日挨拶をしています。父の中では今も二人暮らしなんですね。80歳を過ぎた父は自炊も掃除もして、きちんと暮らしていますが、私たち姉妹が交代で実家に帰って一緒にご飯を食べるようにしています。この先の介護も見据えて、父に私の家の近くへ来ないかと提案したこともありました。でも、父にとっては、地元の友人たちに必要とされている実感が、今の生きるモチベーション。それを奪うのは違うと思い直しました。ただ、父が本当に困ったときには、いつでも私が引き受ける心づもりでいますね。
吉田羊さんの日常のひとコマ
生活に欠かせない発酵食品
冷蔵庫に常備している納豆とキムチ。東京はお店に並ぶ納豆の種類が多いので、選ぶのも楽しいんです。気になった食品は全国からお取り寄せもします。
足湯ブーツで冷えを撃退
ぬれずに足湯ができて、そのうえ、履いたまま室内を歩けるというすぐれもの。冷え対策として毎日使っていたら、なんと平熱が0.5度も上がりました!
自己肯定感の低さを長所に
平凡だから憧れる強い個性
私は自己肯定感が低いんです。どんなに準備をしてお芝居しても、もっとできたんじゃないかと悔やんだり、他人と比較してしまったりするクセがあります。でもそれは悪いことではなくて、自己肯定感の低さをモチベーションに変えて、次こそは克服しようと頑張る原動力にできているなと思います。
お芝居の世界には、すばらしい俳優さんがたくさんいます。例えば、先輩女優の樹木希林さんもその一人。誰にも媚びずに、自分の個性を信じていらした。私は周りに演技を褒めてもらったこと以外、取柄も特技もなく育ってきたので、きちんと個性を持っている存在への憧れが強いんです。
作品に取り組むたびに必ず一度は自分の演技に悩んで苦しむのですが、仕事の悩みは仕事でしか払しょくできないというのも私の経験則。懸命に向き合うことでしか見つけられない答えがあると感じています。振り返れば、誰かの言葉やたまたま読んだ本の一節など、自分の外にあるものから前進するヒントをもらってきました。すでに自分の中にぼんやりと答えはあるけれど、それを明確にしてくれる何かを無意識のうちに取りにいっているという感じです。だから、落ち込んだときはできるだけ多くの人に会って、新しいものを見聞きすることが、行き詰まった際の克服法でしょうか。
昨年でデビューから25年。体力的にも若いころのようにはいかなくなってきたし、失くしたものを探しがちです。でも、今だからこそ見える景色があるし、人との出会いがあります。年齢を理由に何かを諦めることがないように、これからも常に挑戦し続ける人生でありたいなと思っています。
吉田 羊さん
よしだ・よう●女優。小劇場を中心に活躍し、2007年のドラマデビュー以降は、テレビや映画、ナレーションなど幅広く活動する。2021年の舞台では、紀伊國屋演劇賞の個人賞を受賞。著書に、食のコラム『ヒツジメシ』(講談社)、着物のフォトエッセイ『ヒツジヒツジ』(宝島社)。
撮影/阿部吉泰 ヘアメイク/竹下あゆみ
スタイリング/小田桐はるみ 取材・文/中村さやか
構成/黒澤あすか
関連記事