2021年6月公開の注目映画3選【家族や人生についてちょっと立ち止まって考えてみませんか？】

6月は、コロナの影響で公開延期されていた作品の上映が続き、舞台挨拶などでは監督や俳優陣から「やっと公開にこぎつけた」「この日を待ちわびていた」と安堵の言葉をもらしていたのが印象的でした。

今月公開された映画の中で、家庭で過ごす時間が増えた今だからこそ観てほしい、家族や人生についてちょっと立ち止まって考える機会をくれる3作をご紹介します。

【1】青春真っただ中の少年少女と“青春やり直し中”の大人たちを描くひと夏の物語『青葉家のテーブル』

作品情報

『青葉家のテーブル』全国公開中
監督：松本壮史
出演：西田尚美、市川実和子、栗林藍希、寄川歌太、忍成修吾、久保陽香
エグゼクティブプロデューサー：佐藤友子（「北欧、暮らしの道具店」店長）
企画・製作：北欧、暮らしの道具店
配給：エレファントハウス
公式サイト：https://aobakenotable.com

ストーリー

青葉家ではシングルマザーの春子（西田尚美）と、その息子リク（寄川歌太）が、春子の飲み友だち・めいこ（久保陽香）とその彼氏・ソラオ（忍成修吾）と4人で共同生活を送っている。夏休みのある日、春子の旧友の娘・優子（栗林藍希）が青葉家へ居候しにやってきた。優子の母・知世（市川実和子）は、テレビや雑誌に登場するような有名人。春子とは20年来の友人なのだが気まずい過去があり、実は何年も連絡を取っていなかった。

（パンフレット参照）

見どころ

インテリア雑貨や生活道具を取り扱うECサイト「北欧、暮らしの道具店」発の長編映画『青葉家のテーブル』。作品に出てくる家はグリーンやドライフラワーに囲まれ、内装やインテリアの一つひとつにこだわりがあり、とにかくおしゃれ。サイトの世界観が暮らしに根付いた雰囲気が再現されています。また、美味しそうな料理がたくさん出てくるのも見どころ。料理のシーンでは包丁の音、炒める音、揚げる音、ゆでる音、などシズル感がたまらない！　餃子にタコスに天ぷらにチャーハンに……料理を盛りつける器も鮮やかで見るとお腹がすく作品です。
ストーリーとしては中学生のリクと高校生の優子がそれぞれひと夏を通して成長する青春物語であり、春子と知世が過去と向き合い「青春を取り戻す」大人たちの物語と並行して進みます。10代の頃の何者でもない、でも何者かになりたい気持ち、ほろ苦い過去を抱えたまま生きる大人の気持ち、思春期の子どもとの難しい親子関係、どれもわかる50代の女性にこそ楽しんでほしい映画です。

【2】監督の実体験を基に永瀬正敏主演で映画化『名も無い日』

©️ 2021『名も無い日』製作委員会

作品情報

『名も無い日』全国公開中
出演：永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキ、今井美樹、真木よう子、井上順、藤真利子、大久保佳代子、中野英雄、岡崎紗絵、木内みどり、草村礼子
監督：日比遊一
音楽：岩代太郎
配給：イオンエンターテインメント、Zzyzx Studio
公式サイト：https://namonaihi.com/

ストーリー

名古屋市熱田区出身の達也（永瀬正敏）はニューヨークに暮らして25年、写真家として多忙な日々を過ごしていた。ある日突然、弟・章人（オダギリジョー）の訃報が飛び込み、名古屋に帰省する。自ら破滅へ向かってゆく生活を選んだ弟の死。その圧倒的な現実に、カメラのシャッターが切れなくなる達也。末弟の隆史（金子ノブアキ）も、現実を受け止められず茫然としていた。達也はカメラを手に、過去の記憶を探るように名古屋をめぐり、家族や周囲の人々の思いを手繰り始める。

（パンフレット参照）

見どころ

まず驚くのが、この映画の内容が写真家・映画監督として活躍する日比遊一氏の家族に実際に起こった話だということ。出身地の名古屋市熱田区で実際に撮影し、実家をロケ場所にするなど思い入れもあり、リアリティにこだわったのが伝わってきます。それでいて個人的な物語で終わらないのは、時折ファンタジックな要素の入る映像や壮大な音楽はもちろん、豪華キャストが覚悟を持って臨んだ演技に心揺さぶられるからではないでしょうか。
特に、俳優と同時に写真家としても20年以上のキャリアがある永瀬正敏さんは、監督自身を投影した難しい役柄をまっすぐに演じていました。オダギリジョーさんの熱演は永瀬さんが「鬼気迫るどころじゃない」と語るほど。女優陣も素晴らしくて、達也の同級生役には14年ぶりの映画出演となる今井美樹さん。ある過去に囚われたまま地元で暮らす寂し気な女性の姿、流す涙に気持ちを持っていかれました。三男・隆史の妻役の真木よう子さんからは、明るくて、周囲をあったかい気持ちにさせる芯の強さを感じました。とにかく見どころが多過ぎてきりがないのですが、観るときは気負わずフラットに鑑賞して、それぞれが何かを受け取って帰ってほしい作品です。

【3】突然の熟年離婚に直面して戸惑う家族『幸せの答え合わせ』

作品情報

『幸せの答え合わせ』全国公開中
監督・脚本：ウィリアム・ニコルソン
出演：アネット・ベニング、ビル・ナイ、ジョシュ・オコナー
提供：木下グループ
配給：キノシネマ

ストーリー

イギリス南部の海辺の町シ―フォードで暮らすグレース（アネット・ベニング）とエドワード（ビル・ナイ）はもうすぐ結婚29周年を迎えようとしていた。仕事を引退したグレースは詩集の作成に力を注ぎ、エドワードは高校で教師をしている。独立して家を出た一人息子のジェイミー（ジョシュ・オコナー）が久し振りに帰省した週末、エドワードは突然グレースに離婚を切り出す。予想だにしていなかった出来事に動揺するグレースとジェイミーだが、エドワードが家を出たことをきっかけに、自身の生き方や人間関係を見つめ直していく。

（パンフレット参照）

見どころ

妻、夫、その息子。登場人物といえばほとんどこの3人という家族の物語。ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞などの受賞歴のある、実力派俳優たちが演じます。描かれるのは、夫から突然「家を出て行く」と言われた妻とその息子が、何とか立ち直ろうともがく姿。妻のグレースに感情移入するのは簡単ですが、何かと自分の意見を押し付けがちなグレースの言動に問題がないわけではない、というリアルもきちんと映し出され、イギリスの田舎町の風景や美しい音楽と共にこの家族を見守ることになります。直接対話が成り立たない夫婦の間を取り持つ息子のジェイミーが、同僚からの言葉で自分も心に深い傷を負ったことに気づくシーンにはハッとさせられる気づきも。誰も傷つかない離婚なんてないけれども、ラストにはそれぞれが希望の光を見出し、その余韻にじんわり浸ることができます。

この記事の著者

富田夏子（とみたなつこ）

女性誌やweb媒体を中心に、エンタメや生活情報の記事を執筆しているライター。
2007年～女性向け週刊誌の契約記者。ハリウッド俳優やオリンピックメダリストへのインタビュー、日本の名医シリーズなど幅広い記事を執筆。2011年～主婦向け月刊誌記者。映画、DVD、音楽、本のレビューなどエンタメページを長年連載。イケメン若手俳優の取材記事や、モデルのインタビュー連載も担当した。現在、娘2人の子育てをしながら、雑誌やweb、書籍のライティング・編集などを手がけている。