ラトリエ コッコ シェフ 髙田麻友美さん【輝く人のON/OFF】
撮影/木村和敬 取材・文/瀬名清可(Weekend.)
髙田麻友美さん
たかだ・まゆみ●ラトリエコッコ 白金本店および三田店のオーナーシェフ。ロワゾー・ド・リヨンなどで修行後、独立。二児の母として育児にも奮闘中。
幼い頃からお菓子づくりが好きだったという髙田麻友美さん。東京都心で2店舗のベーカリーを切り盛りするオーナーでもあります。
自分らしく生きる人の“ONとOFF”を紹介するこの連載。今回は、髙田さんのONとOFFをお聞きしながら、情熱の源を探りました。
糸数さんの人生のターニングポイント
- 4歳 初めて一人で料理をし、つくることの面白さを知る。将来の夢は「お菓子屋さん」。
- 10歳 お菓子づくりに夢中になる。
- 18歳 高校卒業後、最短ルートでパティシエになりたいと考え、一年制の専門学校を選び理論を中心に学ぶ。
- 20歳 東京のお菓子屋さんやレストランで経験を積む。
- 25歳 天然酵母パンと焼き菓子の店「ラトリエ コッコ」を開業。
- 28歳 結婚と出産を経て、ラトリエ コッコ三田店(2号店のベーカリーカフェ)をオープン。
- 30歳 子育ての経験から、子どもたちにこそ料理やお菓子づくりに触れてほしいと思い、毎月季節感ある「食」のワークショプを開催。
- 35歳 フードロスや生活困窮者などの社会問題にも取り組み、「夜のパン屋さん」や、子どもたちにSDGsを教える教室を開催している。
【18歳】夢への第一歩!憧れのパティシエへの最短ルートを築く
物心ついた頃には、お菓子づくりに夢中になっていた髙田さん。
初めてつくったおやつはフレンチトーストで、4歳の頃だったと話します。
「食べるよりつくるのが楽しくて、本を参考に真似してつくっていました」
転機が訪れたのは18歳のとき。パティシエになって東京にお店を持つという目標を叶えるため、最短で資格を取得できる大阪の専門学校へ入学を決めました。
【25歳】早くお店を持ちたい!大反対された独立計画で味方になってくれた人
専門学校では理論を学び、晴れて東京のパティスリーに就職した髙田さん。修行を重ねながら、30歳までに自分のお店を持つ方法を模索します。
「当時は若くして独立することに賛成する人はいませんでした。製菓の世界は男性社会でもありましたし…」
そんな中、勤め先の元上司と、イタリア料理の名店「TACUBO」のオーナーが味方になってくれたそう。
「お二人からは素材の目利きと、職人としてのあり方を学びました。いち早くパティシエとして自分を試したいと訴える私の背中を押してくれたお二人でもあります」
努力の結果、25歳で独立。高校のときに思い描いた「30歳までに独立」の夢を5年も早く達成したのです。
【28歳】思わぬ転機の到来!新たなチャンスになった第一子の妊娠
東京・白金に待望のお店を開いてから三年、第一子を妊娠した髙田さん。たった一人で始めたお店も、数人のスタッフを雇うまでに成長していました。
出産を前にお店を数人のスタッフに任せられるよう、入念に準備したと話します。産後は1か月で復帰。スタッフの努力の甲斐があって、お店の経営は安定していたそう。
「お店の様子を見て次のステップに…と思いましたね。すぐに新店の計画を始め、半年後にはベビーカーを押して物件探しに出かけたんです」
新店は、本店と同じ港区の三田エリアに。育児で忙しい時期にあえて新店を出したのは、なぜでしょうか?
「一つは、気になっていたパンのフードロス問題を解決したかったから。二つ目は、自分の力で制御できるのは仕事しかないことに気付いたからです。例えば結婚や出産は、相手や状況に左右されるものだし、自分ではコントロールできないものですから」
あるONの日のタイムスケジュール
- 4:30 起床。早朝出勤の場合は子どもたちのことはパパにお任せ
- 5:30 出勤。パンの製造
- 7:00 お店をオープン
- 8:00 配達業務のついでに子どもたちの送迎
- 9:00 スタッフと、パンとコーヒーで軽い朝食
- 9:30 製造業務
- 13:00 昼食。事務的な仕事
- 14:00 仕事をしながら子どもたちの習い事の送迎など
- 18:00 夕食準備
- 19:00 夕食
- 20:00 家事や明日の仕事の準備、子どもたちの学校の準備など
- 22:00 就寝
社会と身体にやさしい!「天然酵母」を使って美味しさを進化させる
これまでに二つのベーカリーを出店した髙田さん。その行動の原動力になっているのは何でしょうか?
「子どもの頃は、負けず嫌いで目立ちたがり。両親も好きなことに打ち込む姿を認めてくれました。厳しくても挑戦できるのは、育った環境が関係しているかもしれません」
二店目の三田店は、パンや焼き菓子の販売だけでなく、カフェも併設。こちらでは、パンのフードロス問題の解決も視野に入れているそう。
「今でこそ“フードロス”という言葉を聞くようになりましたが、私が店を持った十年ほど前は、パンは当日につくったものしか売ってはいけないという暗黙の了解がありました。でも私のパンは、当日はもちろん、一週間後も美味しく味わえます。カフェでは二日目のパンを丁寧に焼き直し、提供しています」
また、髙田さんのお店のパンは、素材に「天然酵母」を使用。天然酵母のパンは、一般の酵母を使ったものと比べ、生地の中で複数の菌類が活躍し、香りや味わいに個性が生まれるのだそう。
「天然酵母のパンは、焼きあがった後も酵母が働くため、パンが長持ちし、味の変化が楽しめます。初日のパンと一週間後のパンでは、異なる味わいに。さらに、身体にもやさしい。まさに、良いことづくめのパンなんです!」
これからの夢は
売れ残ったパンは、「夜のパン屋さん」というプロジェクトで再販売も。販売作業は、生活に困窮する方々が行うなど、雇用の創出支援にもなっているそう。
「今後はお店の維持はもちろん、より社会に目を向けた取り組みに参加していきたいですね」
【写真左:料理本】本が大好きで、新しい発見もあるし、勉強にもなる。見ているだけでも楽しい。
【中央:レシピ帳(メモ帳)】食材の配合はすべてメモ。同じ味を再現するプロとしての必需品!
【右:天然酵母】少しずつ注ぎ足し、つなげ続けているスペルト小麦の酵母。
【写真左:ナッペヘラ】
パティシエの先輩からいただいたもの。修行時代の励ましに。
【右:パンの型】さまざまな形の型。パンやお菓子に使います。
あるOFFの日のタイムスケジュール
- 6:00 起床。朝食準備
- 8:00 子どもたちの送迎
- 9:00 犬の散歩、カフェでお茶
- 10:00 依頼されているレシピの開発や試作
- 12:00 昼食
- 14:00 子どもの習い事の送迎など
- 16:00 休みの日は早い時間からのんびり夕食をつくる。子どもと一緒につくることも
- 19:00 夕食
- 20:00 家事や明日の仕事の準備や子どもたちの学校の支度など
- 22:00 就寝
仕込みの時間が息抜きに!仕事と家庭の二つの時間が活力を生む
早朝から仕込みに出る日もあり、家庭との両立にも工夫が必要だと話す髙田さん。一体、いつ息抜きをしているのでしょうか?
「実は早朝の仕込みの時間が一番のリラックスタイム。仕込みはルーティン作業で身体が覚えているもの。作業すると頭が空っぽになって、静かな気持ちになっていくんです」
そんな髙田さんですが、子どもとの時間はやはり特別なもの。主催する「食のワークショップ」では、息子さんも参加されることがあるそうです。
「ワークショップで話した内容は、長く記憶に残るみたい。仕事の事情を理解してくれる長男は、やはり心の支えですね!」
【写真左:鉄瓶】鉄瓶で沸かした白湯を飲む時間は、一日の中でも贅沢なひと時。
【中央:ストウブ鍋】結婚祝いにいただいた品。複数あるストウブ鍋の中でも一番のお気に入り。
【右:子どもたちの写真】あっという間に成長する子どもたちの記録はとても大切。
【写真左:本】本はプライベートでも大好き。結局お菓子やパンのものが多いが、フードデザインの写真集や、育児書まで幅広く読む。
【右:コーヒーカップ】店で割れてしまったカップに金継ぎをほどこし、家で再利用。
これからのやりたいことは
ワークショップでは、子ども向けにSDGsや児童労働などの社会的な問題を取り上げ一緒に考えることも。
「これらの活動を今後、継続的な習い事にしていければ。また、子どもの地元となったこの地域の活動にも力を入れていきたいです!」
インタビュー*編集後記*
仕事に熱中しているという表現がピッタリの髙田さん。可愛らしい印象からは想像できない、深い情熱をお持ちの方でした。伝わってきたのは、好きなことに取り組み続けるという一貫した姿勢。取材陣も髙田さんのパンをいただきましたが、やさしい食感と深みのある味わいが印象的でした。