三角巾と洋服が一体化した「アームスリングケープ」開発の歩み|坪田康佑さん【後編】
グッドデザイン賞を受賞した「アームスリングケープ」の開発には看護師としての視点でビジネスマインドを発揮した坪田康佑さんの活躍がありました。一人の声を仲間とともに形にし、市場をとらえた坪田さんが見つめるケアの未来を考えます。後編では、アームスリングケープの製作秘話などを紹介。
前編はこちらから↓
服の重さからの脱却をはかり、シンプルさを追求
たくさんの医療従事者からの声を反映させ「短時間に片手で着られる」という条件をクリアして完成した試作品は、実際に着てみると「重い」「着るのが難しい」という大きな課題を残していました。
その年、グッドデザイン賞に応募したものの落選。僕たちとしても自信を持って応募できていなかったことも敗因だととらえ、悔しさを感じたと同時に「もっと改良していいものをつくりたい!」という気持ちが高まっていきました。
当事者たちが求める機能を残しながらも軽くてシンプルなものをつくることを追求し、たどり着いた答えは「服のパターン」でした。
イメージ通りの服をつくるには、服のどの部分にどのような素材をどのくらい使うかを記した〝縫製仕様書〟をしっかりと作成することが重要だという、服づくりのコアな部分に気付いたのです。そこに時間を費やす方向に舵を切ったところに、デザインもできて仕様書も書けるパタンナーとの出会いや、直接発注できる縫製工場との契約なども重なって、デザインから縫製まで服づくりの一連の流れをつくり出せたことは、失敗からの学びを得て獲得した私たちの強みです。その結果、多くの患者さんに納得してもらえる製品に仕上がり、2回目の挑戦でグッドデザイン賞の受賞も叶いました。
現在までに260着を販売しましたが、購入者や医療従事者の方たちからうれしい声をたくさんいただいています。従来の三角巾は1カ所に圧がかかるため、高齢者や疾患を抱える人たちが使うには適していませんでした。そのためアームスリングケープでは、体重の5%はあるといわれる片腕の重みを肩と腕に分散させる機能を評価してくださったり、デザイン以外では「はだけてしまい寒かった」「ファッションを諦めていた」という長年の課題を解決できたという感想をいただきました。意外に多かったのは、プレゼントに最適だったというコメントで多くの人にアームスリングケープが喜ばれていることを実感しました。
医療政策実現までの道のりにも関心がある坪田さんは、最近国会議員政策担当秘書資格を取得した。
地域の人たちの声を集め ケアプロダクトをつくり出す
今後は地域の声を聞いて見つかった地域の課題を地域の人たちと一緒に解決したいという思いから、来年、市政100周年を迎える川崎市と協働して車いす利用者用のレインウエアの開発を進めています。
きっかけは難病で車いすを使用しているAさんからの「友だちとカフェに行くときに着たいと思えるレインウエアがない」という声でした。アームスリングケープ同様「N=1」から始まったプロジェクトですが、国内の車いすユーザーは200万人近くいることを考えると、この開発の先にある市場はとても大きいと考えています。
今年の春、川崎市の未来を代表する福祉用具の事業(令和5年度川崎市公募型福祉製品等開発委託事業)に採択され、200万円の補助金をレインウエアの開発費用に充てられることになりました。完成は2024年春を予定しており、3月15日に開催される「Welfare Innovation Forum2024」で完成品のお披露目や成果報告会が行われる予定です。来年のグッドデザイン賞受賞はもちろん、毎年受賞する意気込みを持ち、新たなケアプロダクトを仲間とともに生み出し続けていきたいと思います。
アームスリングケープ 着用手順
アームスリングを表に出します
保護が必要な手をひじまでスリングに通し、中央の穴から親指を出します
もう片方の手で襟ぐりをつかんで、首に通します
両方の肩口を整えます
後ろ身ごろを引っ張り、前後のバランスを整えていきます
完成
老老介護で知っておきたいことのすべて/著・坪田康佑さん(アスコム刊)
介護で誰もが悩むことについて解決する介護の入門書。
●この記事は『めりぃさん』2023年12月10日発行号に掲載された内容を再編集しています