受験中に子どもとよい距離感を保つための親の考え方
今シーズン子どもの受験を終えた春田です。自分自身としては仕事をしながら迎えた子どもの受験だったので24時間受験のことを考えていたわけではありませんが、それでも人生で初めて「ストレスで胃が痛いとはこういうことか」と貴重な経験をしました。
これまで受験生をもつ親がどのように怒りの感情をコントロールすればいいのか、乱されがちな自律神経をどうやって整えればいいのかについて触れてきましたが、今回は受験シリーズの最終回、受験生の親はどのような考えでいると子どもとよい距離感が保てるかについて、私の経験も織り交ぜながら紹介したいと思います。
怒りのところでも説明しましたが、親がイライラしてしまうのは「子どもが自分の思い通りにならない」からです。親は子どもよりも長い年数を生きているので、自分の経験や失敗を思い出して「こうしたらいいのに」「ああしたらいいのに」と思うのですが、子どもにとっては初めての受験なので、そのアドバイスがとても貴重であることに気づきません。でも親は自分と同じ失敗をしてほしくないので「模試の結果はすぐに見直してね」「早めに朝方の生活に変えたほうがいいよ」とどうしても言ってしまうんですよね。
ここで大切なのは「子どもと自分は違う人間」ということです。実は「子どもは自分の分身だ」「私の子どもだから私と同じ」と無意識に考えている人はたくさんいます。その考えは「私の子どもだからこれくらいはできるはずだ」と無意識のうちに子どもと、そして親である自分自身を縛り付ける考えになってしまいます。
子どもと自分を比較してしまうように、自分の家と他人の家も無意識に比較しがちです。特に受験はいわば「他人との勝負に勝つための勉強」なのですから無理もありません。ですが、よその勉強方法が自分の子どもに合っているとは限りません。近所の子が夏期講習に行くから、クラスで成績の良い子が塾を2つ掛け持ちしているから、といって同じようにしたくなる気持ちが出てきて不安になりますが、自分の子どもにはどういうスタイルの勉強が合っているのかを判断するのも親の仕事。子どもの気持ちを尊重しながら、そしてきちんとお金の計算もしながら考えていく必要があります。
特に受験が近づくとあれもこれもやりたくなりますが、これまでの勉強方法をガラッと変えてしまうと、子どもは「今まで頑張ってやってきた勉強方法は間違っていたのか」と自信を無くしてしまうかもしれません。私は最後の1年は覚悟を決めて、勉強のやり方を変えたり、よその子の話をしたりすることはやめました。
残念ながら受験は努力がすべてではありません。極端なことを言えば、1日しか勉強しなくても、テストにその日勉強したところが全部出たら、その範囲をたまたま勉強していない365日勉強した人を押しのけて合格してしまうことがあるのです。
それは本番だけでなく模試でも一緒。なので、模試の結果では一喜一憂しないこと。そして叱るときはもちろん、ほめるときも「結果」ではなく「過程」をほめるようにしましょう。
×「いい点数だったね!」
〇「しっかり勉強したからだね」
思ったよりも悪い成績だったとしても、それは本人が一番わかっていること。親の前では平気な顔をしていても、心の中では焦ったり、不安になったりしているので、親が「これで本番大丈夫なの?」「今の勉強方法でいいの?」といったダメ押しをしてしまわないように気をつけましょう。
同じ学校・塾に通い、同じだけ勉強をしても、当日の気持ちの持ちようで合否に影響してしまうことがあります。スポーツであっても、体さえ鍛えれば、技術だけ上達すれば勝てるというものではありません。それを「心・技・体」と表現して、どれも鍛えることで本番に強くなることがわかってきました。つまり「メンタル」も当日のパフォーマンスにとても大きな影響を与えるのです。
受験当日に「大丈夫?大丈夫?」と言って送り出すよりも「これまでの勉強を信じて、がんばってらっしゃい」と言われた方が子どもの感じるプレッシャーも少ないでしょう。
私が受験前後に気をつけたのは以下のような点です。
・試験が近づいたら食事は消化のよいものを
・試験前日、実際に受験会場に行く
・前日はいつもよりも1時間早く寝てもらう
・試験会場は「開門時間」に着く
・当日の話は「業務連絡」だけ
スポーツでもアウェーよりホームの方が有利なように、試験会場がアウェーではなくホームになるように、オープンキャンパスに行ったり、前日試験日の同じ動きをすることで学校や試験会場に慣れるようにしました。
体調管理は食事と睡眠で。ストレスで調子を崩しやすいのは胃腸なので、負担になりにくい消化のよい食事にしました。ただ、消化のよい食べ物は腹持ちが悪く、血糖値が下がりやすくなります。脳の糖分が減ると頭が回らなくなるので、息抜きも兼ねて合間にはキャラメルやラムネを口にできるように準備しておきました(チョコレートは不眠の原因になることがあるので避けました)。同様にストレスで深く寝れなくなる事もありますが、横になるだけでも体は休まるので、試験前日はとりあえず早めに布団に入るように勧め、親も早く寝ました。
最後に、気の利いた言葉が言えればよかったのですが、何を言ってもストレスのかかった子どもがその言葉をどのように受け取るかわからなかったので、とにかく試験当日の会話は「業務連絡」だけにしました。「7時に家を出るよ」「受験票を忘れてないか確認して」「帰りは校門で待ってるよ」
複数校を受験したので、試験が1つ終わっても「出来はどうだった?」と聞くのもやめました。
3回にわたり、子どもの受験を通して私が感じたことや気をつけたことをお話ししました。私のやり方が正解というわけではありませんし、受験は子どもごとに合わせたオーダーメイドだと思っているので、兄弟姉妹でも気をつけることは違うでしょう。
この記事を読んでいただいて、1つでも皆さんの参考になることがあれば幸いです。
内科医
春田 萌
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
大学病院、二次救急病院、在宅医療を経験。