介護うつの症状・原因は?被介護者と幸せになるヒント
「介護うつ」とは、介護疲れからうつになること。精神的・身体的に負担がかかる介護。どうすれば「介護うつ」にならず心身共に健康でいられるのでしょうか。
うつの「症状」「予防方法」「治療方法」を解説しながら、わたしたちが介護をしながら幸せに暮らすためのヒントをお届けします。
知っておきたい「うつ状態」と「うつ病」の違い
そもそも「介護うつ」とは、正式な病名ではありません。介護うつは、介護に疲れてうつになる状態を指しますが、「うつ」は大きく『うつ状態(抑うつ状態)』と『うつ病』の2つに分けることができます。
うつ状態は「誰でもなるもの」
うつ状態は、気分が落ち込んでいる状態のことで病気ではありません。人がたまに憂うつな気持ちになるのは当たり前。つまり「うつ状態」は誰でもなりえる状態であり、“一時的”な気分の落ち込みである可能性もあります。
うつ病は「病気」
一方、うつ病は病気です。身体的・精神的な症状が2週間以上続く場合、うつ病と診断されます。
精神疾患の症状は“気持ちのゆらぎ”によっても浮き沈みするため、「うつ状態」か「うつ病」かを見極めるのは簡単なことではありません。「介護うつ」の言葉のなかには、「うつ状態」と「うつ病」の両方が含まれます。また、介護中にうつになるケースがあれば、介護後にうつになるケースもあります。
「介護うつ」の主な症状をチェック
介護うつ、つまり「うつ」の症状は人によりさまざま。うつは「身体の症状」と「心の症状」の両方、またはそのどちらかが現れます。
下のチェックリストに当てはまるものがあり、症状が2週間以上続く場合は、速やかに精神科や心療内科を受診してください。
身体的な症状 |
・眠れない、まはた寝すぎる(睡眠障害) |
精神的な症状 |
・なにをしても憂うつ、楽しくない |
これらの症状は、あくまで目安です。上記にないことでも、気になること、困っていることがあれば、速やかに病院を受診しましょう。
うつの原因は「心の弱さ」ではない
介護うつ、その中でも「うつ病」になるのは、決して“メンタルの弱さ”や“性格”のせいではありません。うつ病は「心の問題」ではなく「脳の異常」だからです。
うつの症状が出るのは、ストレスや飲んでいる薬の副作用など、なんらかの原因により脳の情報伝達物質に異常が起こることが原因であるとわかっています。
また、介護中にうつになったとしても、うつの原因が介護ではない可能性もあります。自分のストレスの原因を知ることは、うつから抜け出すために重要なこと。心と身体に耳を傾けて「本当のストレスの原因」を考えてみましょう。
代表的なストレスの原因
下記は、代表的なストレスの原因。介護以外にも、考えられる原因がないかチェックしてみましょう。
■仕事のストレス
職場の人間関係、過労、ミス、立場の変化、就職、退職、定年など
■健康のストレス
病気、更年期障害、事故など
■家庭のストレス
介護、子どもの巣立ち、良好な関係が築けない、離婚、結婚など
■お金のストレス
貧困、金銭トラブルなど
■その他のストレス
近親者やペット、大切にしていたものや立場などを失う「喪失体験」
経済状態の変化、引っ越し、社会変革などの「環境の変化」
満員電車やネガティブなニュース、新型ウイルス流行による外出自粛などの「デイリーハッスルズ*」など
上記のストレスは簡単に消せるものではないかもしれません。しかし、カウンセリングや心療内科に行くことで、ストレスから受けるダメージを和らげることは可能です。
*デイリーハッスルズとは、日常的に繰り返される小さなストレスのこと
「介護うつ」の原因と予防策
では「介護うつ」である場合は、どのように介護から受けるストレスを減らしたらいいのでしょうか。介護者の方の“よくある悩み”を見ながら、具体的なストレス解消方法をご提案します。
介護ストレス①体力がもたない
入浴や着替え、排せつのお手伝いなど、介護は体力的にもハード。心と体はつながっているため、身体的な疲れは心の疲れに直結します。体力的に介護がきついときは「自分が体力をつける」か、介護サービスを利用するなどして「自分の負担を減らす」という2つの解決方法を検討してみましょう。
体力をつけるとき、大切なのは下の3つ。
- 睡眠時間を充分に確保する
- バランスのよい食事で、充分に栄養を摂る
- ストレッチや運動を習慣にする
ハードな介護をおこなっている方は、負荷の高い運動を無理にしなくてもOK。運動が習慣にない方は、5~15分のストレッチや軽いウォーキングから続けてみましょう。また、心の疲れは体の疲れにつながります。定期的なリフレッシュも忘れずに。
介護ストレス②自由がない
四六時中、被介護者のそばにいないといけない場合、自分の自由な時間が取れずストレスになります。どんな人でも、休息時間は必要です。
常に被介護者と一緒にいなければならない場合は、介護サービスの利用を検討しましょう。見守りができれば充分なら、離れていても様子が見れたり会話ができる「見守りカメラ」がおすすめです。
介護ストレス③精神的な不安やストレス
「あと何年、介護生活が続くんだろう」「被介護者と意思疎通が取れなくてイライラする」「24時間、介護のことばかり考えている」など、精神的な不安やショック、ストレスを抱えているケースです。
このような場合は、以下の例にように、ストレスの原因である「問題」そのものを解決できないか検討してみましょう。
→介護サービスや周囲の人を頼って、自分の負担を減らす
→できる範囲で介護サービスに頼る
→ネットカメラや洗濯代行、食事宅配などのサービスを利用して、できるだけ見守りや家事の負担を減らす
→市区町村の介護保険課、または地域包括支援センターで配布されている「居宅介護支援事業所のリスト」や、かかりつけ医への相談からケアマネージャーを見つける(2021年現在、ケアマネージャーの自己負担料金は0円)。
→介護で悩んでいる人のコミュニティーをネットで探す
→「認知症カフェ」を利用する
上記のように問題が解決できない場合は、自分の考えが論理的にあっているかを検討してください。
→「親の介護をすること=自由がなくなること」ではない。工夫次第で自由時間を作れるかも。
→イラついているのは、被介護者ではなく自分に対してかも?自分にイラついてしまう理由ってなんだろう。
自分で論理的に考えることが難しいときは、カウンセラーに頼ってみるのがおすすめ。ただ話を聞いてくれるのでなく、うつに有効とされる「認知行動療法」などの療法を使ってくれるカウンセラーに頼るといいでしょう。
介護ストレス④経済的な問題がある
在宅介護も施設利用も、どちらもお金がかかります。経済的に苦しいときは、政府や自治体の制度を利用しましょう。生活保護の中には「介護扶助」という制度があり、介護サービスを利用する費用の一部を負担してくれます。
仕事を辞めた場合は、雇用保険の給付。税金の支払いが難しいときは猶予制度。医療費が負担になっている場合は、高額療養費制度、など日本は経済的に困ったときに制度が充実しています。
貧困や経済的な問題は、必ずしも当事者の問題というわけではありません。困っているときは、必ず誰かに相談してください。
上記4つ以外のストレスを抱えているときにも、下記の2点を意識することはストレス解消に効果的です。
- 問題を解決するためにどうすればいいか論理的に考える
- 行き詰ったときは、すぐに医師やカウンセラー、ケアマネージャーに相談する
「介護うつかも」と思ったらすること5つ
「うつかも」と思ったら、状況が悪く前に行動しましょう。以下の4つを、できることから実行してみてください。
①はやめに精神科・心療内科へ
うつは他の病気と同じように、早期治療が早く回復し、放置すると悪化する傾向があります。症状が強くない場合は、薬なしで治療してくれるケースも。そのため「このくらいで行ってもいいのかな?」と思ったタイミングで行って問題ありません。
うつ病は脳の情報伝達物質の異常なので、気のもちようでは治りません。早い段階で「精神科」「心療内科」「メンタルクリニック」などと呼ばれる病院に行きましょう。
②休みをとってリフレッシュする
介護者がしっかり休みをとって心身共に健康であることは、被介護者にもポジティブな影響を及ぼします。だからこそ「被介護者に申し訳ない」と思わず、可能な限りたくさん休んでください。
疲れやストレスは、基本的に自覚するのが難しいもの。自覚したときには「いま休まなかったら、状況はもっと悪くなる」と考えて早急にケアしましょう。とはいえ自由な時間が取れないときは、短時間でできる自分の機嫌がよくなる趣味を持つのがおすすめ。映画や音楽、絵画、ヨガ、資格の勉強など、テンションが上がる趣味を見つけてみましょう。
③自分以外の人に頼る
1人での介護が難しいときは、迷わず誰かを頼りましょう。周りに頼れる人がいないときは、ケアマネージャーさんに頼るのがおすすめ。日本では、ケアマネージャー(正式名称は介護支援専門員)を無料で利用することが可能です(2021年1月現在)。ケアマネージャーは、介護サービスの提案や介護保険の申請代行、ケアプランの作成などをしてくれます。
介護サービスを上手に利用すれば、介護者・被介護者の双方にとってプラスになります。介護者の負担が減るだけでなく、被介護者の身体能力が高まったり、精神状態も良くなり「明るく過ごせるようになった」というケースも少なくありません。
④生活習慣を改善する
充分な睡眠、栄養豊富なバランスのよい食事、適度な運動は、うつの改善に有効です。この3つのうち、どれかが不足している場合は可能な範囲で補いましょう。
また、日照時間が短い地域は、ほかの地域より「うつ病の発症率」が高いというデータもあります。これは、日を浴びないとセロトニン(通称:幸せホルモン)が減少するから。日が出ているときに散歩をしたり、セロトニンの生成にかかわるアミノ酸「トリプトファン」が多く含まれる食品を摂って対策しましょう。
「トリプトファン」が多く含まれる食品 |
①大豆製品 ②乳製品 ③魚類 ④肉類 |
⑤カウンセリングに行く
「自分には価値がない」「消えたほうがいい」などの“自分を悩ませる考え”は、カウンセリングを通して修正できる可能性があります。うつにおいて、脳の異常にアプローチしてくれるのが薬だとすれば、気持ちの問題にアプローチしてくれるのがカウンセリングです。
「対面のカウンセリングはハードルが高い」という方は、メールカウンセリングや電話カウンセリングがおすすめ。
ただし、療法を使うのではなく単純に話を聞いてくれるだけのカウンセリングは、うつが悪化するリスクがあるので危険です。カウンセリングの資格を持っており、自分なりに信頼できそうなカウンセラーを探してみましょう。
自分の幸せが、被介護者の幸せにつながる
介護は、自分の力だけでは普通に生きられない人を助けること。介護をする側に安定した精神力と身体力がないと、介護者自身が倒れてしまいます。被介護者を大事にするのと同じくらい、またはそれ以上に自分自身を大切にして自分を守りましょう。
日本は、生活に困っている人を助ける制度が充実しています。介護が辛いときは積極的に制度を利用したり、介護サービスを利用して自由な時間を確保してくださいね。