スタイリスト、着付け師 田中舞 さん【輝く人のオンオフ】
撮影/小林大介 宗廣暁美 取材・文/渋谷唯子
スタイリスト、着付師
田中 舞さん
たなか・まい●スタイリスト、着付師。スタイリスト・真島京子氏のもとでアシスタント後、独立。洋服・和服のスタイリングを行う。現在、2児の母として育児・親の介護にも奮闘中。
小さい頃から歌番組が大好きで、アイドルの衣装に注目していたという田中舞さん。スタイリストであり着付師でもある田中さんは、洋服だけではなく、和服のスタイリングや着付けも手がけます。自分らしく生きる人を訪ねるこの連載。今回は、田中さんのONとOFFをのぞいてみました。
10歳 きっかけは歌番組衣装に憧れて始まったスタイリストの道
幼少期、歌番組が大好きで、それがきっかけでファッションに興味を持ったという田中さん。
「『ザ・ベストテン』『夜のヒットスタジオ』などを欠かさず見ては、衣装を興味深く見ていました。特に、小泉今日子さんや中森明菜さんが大好きでした」
その後、スタイリストを目指して専門学校へ進みます。
20歳 師匠と出会い、仕事の基礎を固める下積み期間 独立後も学びの日々
その後、スタイリストを目指して専門学校へ進みます。
専門学校を卒業後、友人の紹介でスタイリスト・真島京子氏のアシスタントに就きます。
「師匠が着物のスタイリングもやっていたので、私もやってみたくて。師匠にお願いして、アシスタントをしながら、週に1度の着付け教室に通いました」
4年間のアシスタント期間を経て独立。その後、田中さんは28歳でイギリスへの留学を決断します。
「語学面で勉強不足だと感じていましたし、自分を見つめ直すためにも必要な時間でした」
34歳 結婚、出産 悩んだ末に決意した育児と仕事の両立
34歳で結婚し、その翌年には長女を出産。出産後は、子育てに専念しようか、仕事を続けるか非常に悩んだといいます。
「自分で子どもをみたいという気持ちが強くて、子どもをあずけることに抵抗があったので、仕事を続けるかは相当悩みました。でも、祖母も母も子育てと仕事を両立していたので、私も両方頑張ってみようと決め、仕事に復帰しました」
子育てをしながら仕事をするようになってからは、より準備に時間を注ぐようになったそう。
「スタイリストの仕事は、1着だけを用意するのではなく、何パターンかのスタイリングの準備が必要です。準備期間が短いと、他の仕事と重なり、優先順位がかわり、効率が悪くなり、プライベートまで影響することも。なので、準備に時間をかけることでメリハリをつけて、仕事も子育ても思いっきりやろうと気持ちを切り替えました」
着物文化を次の世代にもつないでいくために技術を磨き続ける
洋装も和装も手がける田中さん。スタイリングするうえで、違いはあるのでしょうか?
「大きな違いはありません。どちらも着る方の年齢やテーマに合わせること、着付けの仕方、着姿も重要で気を付けています」
田中さんにとって、着物はもともと身近にあるものだったといいます。
「祖母が旅館の女将、母が日本舞踊をしていたので、着物には日常的に触れていました。母の稽古や舞台に出掛ける前の準備を手伝ったり、後片づけをするのが好きでしたね」
そんな田中さんですが、近年自分で着物を着られる人の割合がかなり減っていることが気になっているそう。
「どの家庭もおばあちゃんやお母さんが着付けをしてくれることも減っていますし、この状況のままで10年たったら…と想像すると、ちょっと寂しいなと。もっと着物に触れる機会を持ってもらい、着物を着たいという人をふやせたらと考えています」
これからの夢は
もっともっと着付けがうまくなりたいと話す田中さん。
「身近に着物を着る機会をふやしていただいたり、海外の方にも着物の楽しさを伝えたりして、着物文化を絶やさないようにしたいです」
あるONの日のタイムスケジュール
- 5:00 起床。朝食やお弁当を準備し、家事を済ませる
- 8:00 子どもを見送った後、メールチェックや事務仕事
- 10:00 業務開始。リースや打ち合わせ、撮影など
- 18:00 業務終了
- 19:00 夕食。夫、子ども、母親、家族そろってテーブルにつく
- 21:15 娘とNHKラジオ「中学生の基礎英語」を聴いて勉強
- 23:30 就寝
オフは子どものやりたいことにつき合うとにかく楽しい時間
現在は2児の子育てに加え、母親の介護、自身の仕事もこなす田中さん。 オフの時間は、子どもと自然が多い場所へ遊びにいくことが多いそう。
「やっぱり子どもの成長は喜び。イキイキと遊ぶ姿を見るのはとにかく楽しい時間です」
母親の介護は大変ですが、よい影響もあると話す田中さん。
「母の介護をする姿を子どもに見せながら、家族の大切さや人を助けることのやさしさを伝えられたらいいなと思っています」
これからやりたいことは
国内や海外など、もっと旅行に行きたいと話す田中さん。
「最近は仕事の時間が多くなってしまっているので、家族と一緒に過ごす時間をもっとふやしたいと思います!」
あるOFFの日のタイムスケジュール
- 7:30 起床。子どもを起こして朝食
- 8:00 洗濯や掃除などの家事に取り組む
- 9:00 買い物。1週間分の食品をまとめて購入
- 11:00 ホットヨガで汗を流す
- 13:00 昼食
- 14:00 子どもと出掛ける。公園や自然の多い場所へ
- 18:00 夕食。家族と一緒にゆっくり過ごす
- 23:30 就寝
インタビュー★編集後記★
「古いものが好き」「物は大切に長く使う」と話していた田中さん。その言葉通り、ON・OFFで大切なものは10年以上愛用しているものばかり。物や伝統に対する敬意があり、それが“着物文化を残していきたい”という熱意につながっているのだと思いました。変化が激しい時代だからこそ、私たちは改めて伝統の強さに目を向けるべきなのかもしれません。