高齢者の足のトラブルは若いころの水虫の放置が多い
今回は水虫の話です。水虫は命にかかわる病気ではありませんし、水虫にかかっていることはなんとなく恥ずかしくて相談できない人も多いのですが、実は若い人でも5人に1人は水虫に感染している、ありふれた病気です。
私は内科なので水虫を専門的に診るわけではありませんが、内科で通院している高齢者の患者さんから「ちょっと足も一緒に診てほしい」と言われると、その多くが水虫です。しかも、水虫が皮膚だけでなく爪にまで入り込んで様々なトラブルを引き起こしていることが多いのです。
ちなみにそのような高齢者を診察したとき、私は付き添いの息子さん、もしくは娘さん(年齢は50~60才くらいの方が多いです)に「あなたに水虫の症状はありませんか?」とお聞きすると、「実は私も・・・」と言われることが多いのです。これは、水虫は家の中でうつりやすいので驚くことではありませんが、その息子さんや娘さんたちも「水虫かな?」とは思っていても、病院に行って診断を受けたり治療を受けている人はほとんどいません。
実は水虫の治療は長期戦です。症状が出てから治療を始めても、治るまでに年単位かかることがあります。皆さんの足は大丈夫ですか?
水虫の症状、と言われると多くの人が「足の指の間の皮膚がめくれてかゆくなる」とイメージするかもしれませんが、実は水虫にはかゆくないタイプもあります。
足の水虫は以下のように分類されます。
<皮膚の水虫>
- 趾間型:足の指の間の皮膚がめくれて、汁が出たり、かゆみが出る。
- 小水疱型:足の裏などに小さな水疱(中に液体の入った発疹)ができる。かゆみはあるときも、ないときもある。
- 角化型:かかとなどの皮膚が硬くなりカサカサになったり、ひび割れたりする。かゆみはない。
<爪の水虫>
- 爪白癬:爪が白濁したり、分厚くなったり、もろくなる。
テレビコマーシャルでは症状の強い趾間型、つまり足の指の間の皮膚がめくれて赤くなり、かゆくなっているようなイラストを使用することが多いので、その他の足の変化を水虫とは気づかないかもしれません。
水虫を治療せずそのままにしておくと皮膚が弱くなって、外からの細菌が侵入しやすくなります。
皮膚に細菌が入り込めば感染がおきて、膿が出たり、痛みを伴ったり、ひどくなると細菌が全身にひろがってしまうこともあります。
皮膚だけの水虫だった人も放置すると爪に水虫が入り込み爪白癬になります。すると爪が分厚くなり、皮膚に食い込んで痛みや炎症を引き起こします。もしくは爪がもろくなってボロボロと崩れていきます。
このような爪は普通の爪切りで手入れすることが難しくなり、さらに放置すると大きく爪が曲がったり、反ったりして、靴に当たって痛くなったり出血したりと新たな足のトラブルの原因になります。
水虫は「白癬菌」という菌による感染症です。
白癬菌は皮膚や爪に多く含まれる「ケラチン」という成分を栄養にしているので、ケラチンの少ない体内で増えることはありません。水虫の診断は白癬菌を顕微鏡で確認する必要があるので、皮膚科に受診する必要があります。
水虫の塗り薬は市販薬でも販売されていますが、場合によっては飲み薬でないと治らない水虫もあります。
また、水虫に似た他の皮膚病の可能性もあるので、疑わしい症状が現れたらまずは受診して、きちんと診断を受けてから治療を開始しましょう。
水虫の好きな環境は「高温・多湿」です。
なので、水虫が元気になる時期は夏、それから湿気の多い梅雨などに活発になります。逆に寒くて空気の乾燥している冬には水虫はおとなしくなります。誤解してはいけないのは、水虫は「おとなしく」なるだけで、「消えて無くなる」わけではないことです。
治療を開始すると症状は軽くなり、見た目にも皮膚はキレイになっていきますが、そこで治療をやめてはいけません。その時点では水虫は薬によっておとなしくなっただけで、まだ皮膚のなかに住んでいます。
塗り薬の場合は、そのまま治療を続けて水虫をおとなしくさせたまま、皮膚が生え変わる1-2か月薬を続けて完全に水虫を追い出す必要があります。
水虫は一度完全に治療をしても、また皮膚に付着すれば再び皮膚に入り込んでひろがります。
水虫が皮膚にくっついてから入り込むまでの時間は12時間くらいと言われているので、その前にしっかり足を洗い流すことが重要です。
公衆浴場の足ふきマットにはほぼ100%白癬菌がいたという衝撃のデータもありますので、特に注意が必要です。
最初に述べたように、家族で1人水虫の人がいれば、その家族には高い確率で水虫がうつります。
家でも特に気をつけるのはバスマット。理想は1人1人違うバスマットを使用することです。加えて、足はしっかり指の間まで洗うこと。しかし、皮膚を傷つけるような軽石の使用はかえって水虫が入り込みやすくなるので厳禁です。
そしてお風呂あがりはしっかり足を乾かしましょう。乾ききっていないのに靴下をはいてしまうと体温と水気で水虫の好きな「高温・多湿」の環境を作ってしまいます。
同様に、革靴やブーツも長時間はいていると足から出る汗で「高温・多湿」な環境になります。
もちろん家に帰れば靴は脱ぎますが、昼に足の裏から出る汗の量は100mlとも言われており、1晩脱いだだけでは靴の内側は完全に乾きません。
靴は3足用意してローテーションで履くのが理想的です。
水虫を放置すると爪白癬になって、場合によっては年単位で治療が必要になることもあります。
家族の誰かが水虫の治療を始めたら、他の家族も治療を開始しないと、結局バスマットや床を介してうつしあいになってしまい、治療も長期になってしまいます。
この機会にご家族で水虫の症状がないか確認して、一緒に治療に取り組んでみませんか。
内科医
春田 萌
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
大学病院、二次救急病院、在宅医療を経験。