医師が新型コロナワクチンについて説明します 其の二
内科医師・春田です。前回は新型コロナワクチンについて説明しました。特に現在日本で接種が始まっている新しいワクチン、mRNAワクチンを中心に説明しましたが、今後さまざまな種類のワクチンが日本に入ってくる可能性があります。
そこで今回はもう少し広く、ワクチンと免疫について説明しようと思います(ワクチンの情報は2021年4月30日のものです)。
人間の体には、一度かかった感染症にもう一度かからないようにする機能があります。これが免疫システムです。体内に侵入した病原体(新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなど)の形を体が覚えて、次に同じ病原体が侵入してきたときは、すぐに倒すことができるように準備をしています。
たとえば、新型コロナワクチンの表面に★型のマークがついているとします。この★型のマークは人間の体の細胞にはないとします。すると体は、この★型のマーク(がついているウイルス)は自分の細胞ではない!と気づいて攻撃し、倒します。そして次に、★型のマークのついた病原体が侵入してきたら、すぐに退治できるようにその形を覚えて免疫システムを準備しておきます。
これでもその病気に対する免疫を獲得することができますが、一度その病気に感染しなくてはなりません。強い病原体の場合は、その1回で命を落としてしまうかもしれません。そこで開発されたのがワクチンです。ワクチンはいろいろな方法で体内にウイルスと同じ模型を作って疑似感染させることで、その病原体のマーク(先ほどの例であれば★型)を覚えさせ、それに対する免疫システムを作り上げます。
ワクチンは、体の中にその病原体のマークの模型を出現させることで免疫を獲得する予防方法です。その病原体のマークの模型を体内に出現させる方法は、大きく分けて2種類あります。
<模型そのものを入れる>
- 生ワクチン
(新型コロナワクチンとしては開発中)
- 不活化ワクチン
シノバック:中国、シノファーム:中国 いずれも日本未承認
KMバイオロジクス/東大医科研/感染研/基盤研 国内開発中
- 組み換えタンパクワクチン
サノフィ:仏 日本未承認
ノババックス:米 国内では武田薬品工場が国内生産に着手
生ワクチンは“弱毒化ワクチン”とも呼ばれ、実際のウイルスを弱らせて体内に入れ、「軽く感染させる」ことで免疫を獲得します。日本では麻疹・風疹・BCGなどのワクチンが該当します。
不活化ワクチンは、ウイルスの死骸を体内に入れることで免疫を獲得する方法です。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンです。
組み換えタンパクワクチンとは、遺伝子組み換え技術でウイルスの模型を作成して体に投与する方法です。
<体内で模型を作る>
- mRNAワクチン
ファイザー:米 日本で接種開始
モデルナ:米 日本で承認申請中
- ウイルスベクターワクチン
アストラゼネカ:米 日本で承認申請中
ジョンソン&ジョンソン:米 日本未承認
mRNAワクチンは、病原体のマークを作成する設計図を接種して、人間の細胞の中でウイルスの模型を作るものです(mRNAワクチンについては前回詳しく説明しています)。
ウイルスベクターワクチンのベクターとは、「運び屋」という意味です。食べ物でいえば、「Uber Eats」のように新型コロナウイルスの遺伝子の一部を細胞の中にまで運んでもらいます。そして、その運び屋にはなんと「他のウイルス」を用いています。現在日本で承認待ちのアストラゼネカ社製では「チンパンジーに感染するアデノウイルス」を用いています。このアデノウイルスは人間には害がないことが確認されています。アデノウイルスに新型コロナウイルスの遺伝子の一部をくっつけて接種し、人間の細胞の中に取り込んで、そこで新型コロナウイルスの模型を作って免疫を獲得します。
ワクチン接種は始まりましたが、同じ時期から「変異株」の話題も出てきました。人間が免疫を獲得すると、ウイルスは人間の体の中で増殖できなくなります。ところが、ウイルスもただやっつけられるわけにはいきません。そんななか、うっかり免疫のターゲットとなる印のない(先ほどの例で行くと★型のない)ウイルスが生まれたとします。これが「変異株」です。
★型を目印に獲得した免疫システムは、★型のないウイルスに対しては1から免疫を作らなくてはならなくなります。そこで出遅れると、先にウイルスが増殖してしまうので、重症化しやすくなってしまうのです。
わかりやすく新型コロナウイルスに★型のマークがあると説明しましたが、実際にはウイルスのマークは複数あります。たとえば、初期のウイルスには★型のほかに△型と□型のマークがついていたとしましょう。そして、私たちが★型をターゲットとした免疫を、ワクチンにより獲得していたとします。
もしウイルスの変異により★型が〇型になってしまうと、その変異株には〇型、△型、□型のマークがついていることになります。ところが、私たちの体にはそのウイルスに対する免疫はありません。せっかくワクチンを打っても、このウイルスには免疫がないことになります。こうしてウイルスは、形を変えながら(変異しながら)人間の体を乗っ取ろうとするのです。
しかし、変異株でも★型は残ったままで△型が▲型になったとすれば、つまりそのウイルスには★型、▲型、□型のマークがついているので、ワクチンの効果は発揮できることになります。
このウイルスの変異はいつ、どこで起きるのかはわかりません。恐らくはウイルスの数が多ければ多いほど、そして多くの人に感染すればするほど変異のチャンスは多くなると考えられます。つまりはワクチンを打ったとしても、私たちはその後もウイルスに感染しない努力が必要です。
ワクチンや免疫についてより理解していただけたでしょうか? 皆さんやその家族がワクチンを打つかどうか判断する際に、そのワクチンについて、どうして効果があるのかを理解することが重要です(ただし、執筆時点ではできるだけ早く多くの人にワクチン接種をするため、どのワクチンを接種するかを各自が選ぶことは難しい状況ではあります)。
新型コロナウイルスに限らず、人間の歴史は感染症との闘いでした。感染症になれば抗生剤や抗ウイルス剤での治療を行うのですが、それ以前に感染しないための予防方法としてワクチンを開発して接種することで、昔は命を落としていた感染症から現在多くの人を救ってきたのです。
新型コロナウイルスには100%効く薬はまだありません。そして世界的にはさまざまな変異株が出現しています。皆さんが正しい知識でワクチンを接種するのかしないのかを選択し、さらにはワクチン接種の有無にかかわらず、正しい感染予防法を継続していただくよう願っています。
内科医
春田 萌
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
大学病院、二次救急病院、在宅医療を経験。
参考HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00223.html
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_covid_vaccine.pdf
https://www.asahi.com/articles/ASP4T6DCFP4NULBJ008.html
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