乳がんってどんな病気?女性医師が解説します
初めまして。内科医師の春田です。
今では女性医師も珍しくありませんが、でもやっぱり同じ女性だと「男のお医者さんには話しづらかったのよねー。」と女性の患者さんが、それまでの男性主治医に言えなかったことをよく相談して下さいます。
「生理痛の話なんて、男の人にしてもわからないもんね。」なんて私に言われても、「そうですね!(本音)」、、、というわけにいかず、苦笑いしていますが。
そんな女医春田が、女性に知っていただきたい健康や病気のお話をしていきます。
乳がんはご存知の通り、乳房にできるがんですが、男性にも乳房はあるので、実は男性も乳がんになることはあります。とはいえ、乳がんの99%は女性の病気です。
そして、乳がんは女性で最も多いがんでもあります。2015年の報告によると、乳がんの発生率は10万人あたり147.7人です。女性全体では10万人あたり675人の人が1年の間に新たにがんを発症しているので。乳がんはその約1/4を占めていることになります。
しかし、乳がんは他のがんと異なり対策のしやすいがんです。
その理由としては、乳がんは内臓のがんと異なり体表面(肋骨よりも皮膚側)にできるのでセルフチェックしやすいこと、さらに適切な間隔で検診を受ければ、その多くが早期発見でき、予後も改善するということがこれまでのデータで証明されているのです。
乳がんは早期発見できれば予後は断然よくなります。具体的には、がんが乳房の中にとどまりリンパ節に転移していなければ、5年生存率(その病気の人が5年後に生きている確率)は99.3%と、100%に近い成績が出ています。
たとえ乳がんと診断されても、それほど恐れる必要はありません。
それを裏付ける具体的な数字をもう1つ示しましょう。
毎年新たに乳がんになる人の数は増えています。現在報告されている最新のデータは2015年の乳がん発症者で10万人あたり147.7人ですが、2004年はその約半分、10万人あたり77.3人の発症者数でした。
つまり2004年から2015年の11年で患者数は2倍になっているということです。
では、同じ年の乳がんによる死亡数を見てみます。
2004年10万人あたり16.3人、2015年では21.1人となっています。この期間、患者数は2倍になりましたが、死亡者数は1.3倍の増加にとどまっています。
私はこの違いの理由は、検診を受ける人が増えたり、セルフチェックの啓蒙により乳がんの早期発見が増えたこと、そして乳がん治療の進歩があると考えています。
乳がん検診の詳細やセルフチェックの方法については次回詳しく説明したいと思いますが、まずは適切な間隔で検査を受けるために、自分が乳がんになりやすいタイプかどうかをチェックしてみましょう。
1つ目は乳がんになりやすい遺伝子を持っているかどうか、ということです。
一部の乳がんは遺伝が関係しています。その割合は乳がんの10~20人に1人と言われていますが、遺伝で発症する乳がんは、通常よりも若い年齢で発症しやすいとも言われています。
乳がんに関係した遺伝子はいくつかありますが、有名なのはBRCA遺伝子です。
このBRCA遺伝子は傷ついたDNAの修復に関連しています。DNAは人間のすべての細胞にあり、いろいろなたんぱく質を作るための情報が入っています。
しかしこのDNAが損傷すると正しいときに適切なたんぱく質を作ることができなくなります。結果、一部の細胞は半永久的に分裂・増殖を繰り返します。これががん細胞です。つまり、BRCA遺伝子の異常を遺伝として引き継ぐと、乳がんを含めたがんになりやすい人、ということになります。
親がBRCA遺伝子の異常を持っている場合、子供には1/2の確率で引き継がれます。この遺伝子は女性だけでなく、男性にも引き継がれ、男性でも乳がんや前立腺がんになる可能性が増えます。
BRCA遺伝子の異常があるかどうかは一部の医療機関で採血で検査することができます。
保険適応で検査が受けられる人は一度乳がんもしくは卵巣がんになったことがある人で医師がBRCA遺伝子異常を疑った場合、それから第3度近親者内(第3度近親者とは曾祖父母、大おば、いとこなどです)に乳がんや卵巣がんを発症した人がいる場合です。
これらの人はもしBRCA遺伝子の異常があるとわかれば、希望者に対してやはり保険適応でがんが出現する前に予防的な乳房切除術や卵管卵巣摘出術を行うことができます。
これらの予防的な手術は乳房は40歳までに、卵管卵巣は50歳までに施行することが勧められていることもあり、血のつながった人に乳がんや卵巣がんになった人が複数いる場合には、早めにBRCA遺伝子の検査について、病院で相談してみましょう。
もう1つ、乳がんになりやすいと報告されているのが、女性ホルモンの分泌が多い人です。
具体的には11歳以前に初潮(はじめての生理)があった人、閉経(最後の生理)が55歳以降の人、出産歴がない人、そして肥満の人が女性ホルモンの分泌が多いと推測されます。
基本的に女性ホルモンは生理がある期間に多く分泌されるので、生理期間が長い人は女性ホルモンの分泌量が多いと考えられます。ただし、妊娠期間中や授乳中は女性ホルモンの分泌は少なめになるので、出産回数が多かったり、母乳を与えている期間が長い人はその間の女性ホルモンの分泌は少ないと考えられます。
そして、女性ホルモンは脂肪細胞からも分泌されるので、肥満の人は女性ホルモンが多いと推測されます。
乳がんの一部は女性ホルモンに刺激されて大きくなる性質を持っており、女性ホルモンの分泌が多い人は、これらのがんになったときに進行が速くなる可能性があります。(逆に、女性ホルモンで大きくなるタイプの乳がんは、女性ホルモンの働きを抑える薬を使って治療します。)
現在厚生労働省が勧めている乳がん検診は2年に1度ですが、自分が乳がんになりやすいタイプだった場合は、間隔をせまくして検査を受けたり、セルフチェックをこまめにするなどの対策が勧められます。
乳がんになりやすい可能性がある人は・・・
- 血縁者に乳がんや卵巣がんの人がいる
- 女性ホルモンの分泌が多い
このような人は、通常の検診に加えて、人間ドックやセルフチェックなどでこまめに検査しましょう。
次回は乳がん検診やセルフチェックの詳細についてお話します。