閉経前後が大事!骨粗鬆症にならないためのポイント
内科医師の春田です。
外来で患者さんとお話していると、「認知症にはなりたくない」「癌だけはイヤね」とはよく言われますが、「骨粗鬆症になりたくない」とはほとんど聞きません。ところが、実際に骨粗鬆症が原因で骨折した患者さんは、長い間痛みや動けないことで大変苦労されます。場合によってはうつや寝たきりのきっかけになることも。
それでも「転ばなければ、骨折はしないでしょ?」と思っていませんか?
それは間違いです。以前テレビコマーシャルで「いつの間にか骨折」という言葉がひろまりました。あのコマーシャルは骨粗鬆症の恐ろしさを知っていただく目的ではいい言葉だったと思いますが、最近はまたこの言葉を聞くことが少なくなってきたので、もう一度ここで骨粗鬆症とはどんな病気なのか、そして閉経前後に気をつけるべきことなどについて解説しましょう。
高齢者の骨折の8割は女性
実は高齢者の骨折の8割は女性です。
どうしてこんなに男女で差が出るのでしょうか?その理由は男性と女性では主な性ホルモンが異なるからです。女性の代表的な性ホルモンはエストロゲンで、男性の代表的な性ホルモンはテストステロンです。そして、その両方が骨を丈夫に保つ作用を持っています。
骨は「壊して作り直す」を繰り返している
大人になると身長も伸びなくなり、レントゲンで見ても毎回同じように骨が写るので、成長の止まった骨でその後ずっと過ごしていると思われがちですが、実は骨では絶えず古い部分を壊して新しく作り直す作業が行われています。
具体的には破骨細胞という細胞が骨を壊し(これを骨吸収もしくは骨破壊といいます)、その部分に骨芽細胞という細胞が新しい骨を作っています(これを骨形成といいます)。
この骨吸収と骨形成のバランスが同じだと骨はいつまでも同じ状態でいられます。女性の主な性ホルモンであるエストロゲンは骨吸収を抑え、骨形成を促す働きがあるので、エストロゲンが豊富な時期は骨の強さを保つことができますが、更年期になりエストロゲンが減少すると骨吸収が進み、骨形成が遅くなるので、骨がスカスカになります。この状態が骨粗鬆症です。
男性は2つのホルモンで骨を丈夫にしている
ちなみに男性の主な性ホルモンであるテストステロンは、直接的には骨吸収を抑制する効果のみがあると考えられています。
しかし、テストステロンの一部は体の中で女性ホルモンであるエストロゲンに変換されて、エストロゲンの力でも骨を丈夫にしています。つまり、男性にはテストステロンの直接作用と、エストロゲンを経由した2つの作用で骨を丈夫に保っているのです。
骨を丈夫に保つために、女性はほぼエストロゲンに頼っている状態なのに対して、男性はテストステロンとエストロゲンと2つの方法があるので、骨粗鬆症になりにくいのですね。
しかも、女性だけでなく男性にも更年期症状が出ることはありますが、女性は一気にエストロゲンが減少するのに対し、男性のテストステロンは緩やかに減少します。そのため、女性のほうが更年期症状も現れやすいのです。
骨粗鬆症を放置するとどうなる?
さて、女性では骨を丈夫に保つためにエストロゲンが重要な役割を果たしていることが分かりました。そして一気に骨がもろくなるのは更年期です。
具体的には閉経を迎えたら、その時から骨粗鬆症に向かって進んでいくと思ってください。女性の平均的閉経は50才です。そして現在の女性の平均寿命が87歳であることを考えると、30年以上、女性はエストロゲンなしで骨を丈夫に保たなければならない、とも言えます。
誤解してはいけないのが「更年期症状がないから、骨粗鬆症も大丈夫」とは限らないということです。更年期症状があれば、そして治療が必要なほどそれが強い症状であれば、多くの人は病院を受診するでしょう。場合によってはそこで骨粗鬆症の検査も受けるかもしれません。ですが、更年期症状がなくても、必ずエストロゲンは減少するので、全く症状がないまま骨粗鬆症だけが進行してしまう場合もあります。骨折して初めて、自分が骨粗鬆症だったと知る人もそれなりにいるのです。
特に骨粗鬆症で起きやすい骨折は大腿骨近位部骨折と椎体骨折です。
大腿骨とは太ももの骨で、股から膝までの1本の骨です。近位部とは股に近いほうを指します。太ももにはこの大腿骨しか骨がないので、大腿骨近位部骨折になったら基本的には歩くことができません(ただし骨がずれずに骨折後もしばらく歩ける人もたまにいます)。すると、一時的にせよ歩けなくなり、場合によっては寝たきりの原因になることもあります。
とは背骨の骨折で、その多くは押しつぶれるタイプの骨折です。若い人でも転倒して受傷することがありますが、骨粗鬆症がある場合、軽い尻もちや、床から物を持ち上げたとき、そして全く思い当たることがないのに上半身の重みだけで自然に背骨がつぶれてしまうこともあります。
椎体骨折は痛みが強く、起き上がりたくないのでベッドにずっと寝ていると筋力も低下して、これまた寝たきりの原因になります。ひどい場合は神経を圧迫してしびれが出たり、後から足の麻痺が出てくることもあります。
今回は骨粗鬆症のちょっと怖い話をしてしまいましたが、とにかく骨粗鬆症は骨折するまで症状がないことがポイントです。骨折してから後悔しないためにも、閉経したら定期的に骨粗鬆症の検査を受けて、自分の骨の状態を把握する必要があります。
次回は骨粗鬆症の検査について紹介します。