老いることを恐れていませんか? 幸齢者になるために今できること
体や心の老化を恐れたり、老後が心配で仕方ない…など、歳を重ねることが前向きに受け入れられない気持ちは誰にでもあるものです。今回はそんなお悩みに2022年ベストセラー第1位『80歳の壁』の著者で精神科医の和田秀樹さんがアドバイスしていきます。
文/佐野 裕 イラスト/宮下 和
幸せな晩年を送れるか
どうかは準備次第
日本人の平均寿命は男性81・64歳、女性が87・74歳(令和2年調べ)です。しかし、心身ともに自立して生活していられる「健康寿命」で見ると、男性72・68歳、女性は75・38歳が平均(令和元年調べ)となります。
つまり、平均して男性は72歳、女性は75歳になると、健康上の理由で生活に支障を感じる人が増えてくるわけです。
実際、男女問わず70代になると、フルマラソンを完走できる人もいれば、歩くこともままならない人もいて健康格差に広がりが見られます。
「人生100年時代」といわれ、長生きするなら、健康寿命こそ長く保ちたいと考えるでしょう。
私は70歳を超え、充実した毎日を送る人を〝幸せ〟な晩年を送る人という意味をこめて「幸齢者」と呼んでいます。あなたが「幸齢者」になるため、今からできる方法を紹介していきます。
幸齢者になるためのルーティーン
今から少しだけ生活習慣や食事、思考…を変えることで、年齢を重ねることへの不安がなくなったり、心や体の老化をやわらげることができるようになります。すべてやろうとせずできることだけやってみましょう。
生活習慣編|いつもやっている行動を少しだけ変えてみましょう。心が軽くなるのを感じるはずです。
運動はほどほどに。
ちょうどいいのはウォーキング
運動のやり過ぎは逆効果です。体内で活性酸素が大量に発生し、老化が進んでしまいます。まずは、適度な運動を習慣化してください。無理なく続けられるウォーキングが◎。一度に歩かず、1日で30分を目安に歩きましょう。
眠れないときは
無理して眠らなくていい
眠りが浅い、眠れない…と悩む高齢者は多いです。しかし、加齢とともに深い睡眠が減って、熟睡しにくくなるのは自然なことなので問題ありません。無理に眠ろうと睡眠導入剤に頼らないでください。眠くなったら昼寝をして睡眠を取るだけで十分です。
お風呂はぬるめのお湯に
10分以内浸かろう
高めのお湯への入浴は高齢者には危険が伴います。とくに冬場は外気との温度差で身体への負担が大きく、浴槽内での事故死が増えます。お風呂はぬるめのお湯に設定し、浸かる時間は10分以内にしてください。できれば5分くらいがベストです。
脳トレもいいが
脳が喜ぶのは楽しいこと
つまらない作業をしても脳は活性化しません。「ボケ防止」という理由だけで、義務的に脳トレに取り組んでも効果は薄いです。それより、何でもいいので自分が楽しいと感じることをするほうが脳は活性化します。まずは脳を喜ばせてあげてください。
ダイエットはし過ぎない
小太りぐらいがちょうどいい
メタボ対策によって、やせることに執着する人が増えましたが、そこまで気にする必要はありません。なぜなら世界中の統計には、小太りぐらいの体型の人がもっとも長生きするというデータがあるからです。むしろ過度なダイエットこそ弊害があります。
無理に我慢することが
老化を早める
私は医師として30年以上にわたって、6000人以上の高齢者の患者さんを診察してきました。その臨床経験から、「幸齢者」とは「あるある」を持って生きている人だと感じています。
すなわち、老いを受け入れながらも、「まだやりたいことがある」「これができることがある」と意欲に溢れている人です。
そして彼らの多くに共通するのは生活の中で「しなくてもいい無理や我慢」をしていないということでした。
節制や運動は快くできるのなら効果が高いですが、無理や我慢をして続けていても逆に心身へのストレスはたまるばかりです。
実際、日本だけでなく世界のさまざまな研究資料を調べてみると、我慢を強いる健康法や食事法は老化を早めるリスクがあると言われています。
むしろ先述したように、前向きに少し余裕を持って好きなこと、やり たいと思うことを楽しむほうが健康寿命を延ばすことにつながります。
信じられない人もいるかもしれませんが、これは医学的に正しいことなのです。
なぜなら人は身体よりも先に「心」が老化するからです。
食事編|不摂生は敵と考えていませんか? じつは無理をしない食生活こそが私たちの味方になります。
食べたいものを
我慢せずに
食べるようにする
「塩分、糖分、脂質」は不健康の源のように思われています。しかし、不必要なまでにカットし続けると栄養不足に陥るリスクがあります。「食べたい」と思うのは身体が要求している証拠でもあるので、我慢ばかりはよくありません。
お酒はやめなくていい
ほどほどに楽しもう
加齢によって禁酒を考える人がいますが、自分でコントロールできる範囲なら飲酒は人生を楽しくしてくれます。とはいえ、一日中飲み続けるような連続飲酒は絶対に避けましょう。ほどほどに晩酌を楽しむ程度なら問題ありません。
“お肉は悪”はもう古い
赤身肉を食べよう
いまや「高齢者は肉食を避けて、粗食がいい」なんて迷信です。タンパク質が不足して体に悪影響が出ます。実際、90歳以上で元気な人は肉をモリモリ食べています。若々しい筋肉や骨、血管をつくるために牛や豚の赤身肉を身体に取り入れましょう。
タバコを吸いたいなら吸おう
我慢するほうが害
禁煙は「がん予防には有効」ですが、すでに体内にあるがんを進行させるかどうかはわかっていません。なので、ある程度の高齢になったら、どうしても吸いたければ喫煙習慣を続けるのも人生の選択です。禁煙のイライラで精神を乱すほうが害です。
常に新しいものに
興味を抱く生活を
心は大脳の前頭葉が司っていて、感情や意欲は前頭葉と大きく関係しています。
前頭葉が衰えると意欲が低下し、同じ行動しかせず、結果的に記憶力や体力も落ちる生活になってしまうと考えられます。
なので、40~60歳で真っ先に下がる前頭葉の機能を保つことこそが、健康寿命を延ばす秘訣となります。
上で紹介している習慣を生活にぜひ取り入れてみてください。新しいものへの興味を持ち続けるきっかけとなります。
思考・人間関係編|思考が凝り固まると生きづらくなります。これから紹介する5つのことで頭をやわらかくしましょう。
生きがいを求める必要はない
生活を楽しむことを考えよう
生きがいは無理やりつくるものではありません。別になくても問題ないので、生きがいに縛られないように気をつけましょう。日々を楽しく過ごす発想で暮らしていれば見つかるかもしれません。もし見つからなくてもつくる必要はありません。
今の考え方は変えなくていい
選択肢を増やすようにしよう
長く生きれば、自分の考えは変えられないと思うかもしれません。変える必要はないのですが、人生を豊かにするために「他にも正解はある」と考えてみてください。選択肢を増やすことで、自分の意見だけに縛られずに、世の中の変化に対応できるようになります。
孤独であることは
気がねがないことと考えよう
歳をとればパートナーや仲の良い友人を見送ることも多くなります。大きな喪失感に直面しますが、孤独を嘆くだけ嘆いたら、前を向きましょう。孤独は気軽で自由な立場でもあります。自分の時間を好きに使うことができるようになると考えてみましょう。
嫌な人とはつきあわなくていい
一度つき合いを見直そう
人間関係のストレスほど心をむしばむものはありません。人づきあいは大事ですが、嫌な相手に無理に合わせる必要はないのです。自分の交友関係を見直して、気の進まない相手とは距離をとり、気の合う人との時間を増やすようにしましょう。
一度パートナーとのつき合い方を
見直してみよう
最初のパートナーと死ぬまで添いとげるのは、夫婦の唯一の正解ではなく、一つの形に過ぎません。お互いの価値観、将来設計など含めて、関係を一度見直してもいいでしょう。高齢でもパートナーを探す人が多くなってきています。
後悔せず楽しい
「人生100年」にしよう
私自身のお話をしますと60歳を超えて、昨年発売した『80歳の壁』が2022年の年間ベストセラー(日販調べ)に選ばれました。
おかげさまで収入が増えたのですが、貯金はそんなに増えていません。入ってきた分をあえて使うようにしているからです。
私はワインが好きなので400万円ほどするロマネ・コンティを家族や友人と楽しむために数本購入しました。
さらに美味しいものを食べるのが大好きなので、気の合う友人とレストランを巡っています。
後悔しない人生を送るためには、できることをできる間に楽しむのが一番です。
とくに女性は加齢とともに男性ホルモンが増え、更年期以前よりアクティブになる傾向が見られます。その気持ちを抑えずに行動しましょう。
幸せとは何かは人によって違いますが、私は楽しんでこその「人生100年」だと思います。