骨粗しょう症にならないために生活で気をつけること
骨粗しょう症の最終章です。これまで骨粗しょう症になる理由や、女性の場合は更年期になってから骨粗しょう症が一気に進むこと、骨粗しょう症にはどんな検査や治療があるのかについて説明しました。
骨粗しょう症の検査を受けて「問題なし!」と言われても、できれば普段の生活で少しでも骨粗しょう症を防ぐ生活をしたいですね。なんといっても60歳代の日本人女性の約3人に1人が骨粗しょう症になるのですから。そこで今回は骨粗しょう症を回避するために普段から気をつけておくべきことについて紹介します。
骨粗しょう症になりやすい人ってどんな人?
まず、骨粗しょう症ガイドラインに掲載されている骨粗しょう症になりやすい人の特徴を紹介します。
- 高齢
- 女性
- 血縁者に骨粗しょう症の人がいる
- 生理が始まるのが遅かった
- 生理が終わるのが早かった
- 過去に骨折したことがある
- ステロイドを服用している
- カルシウム不足
- ビタミンD不足
- ビタミンK不足
- リンの摂りすぎ
- 塩分の摂りすぎ
- 極端な食事制限
- 運動不足
- 太陽の光を浴びていない
- 喫煙
- 過度な飲酒
- 大量のコーヒー
このうち1~7はどうすることもできません。男性になるわけにいかないですし、生理の始まりや終わりは自分で決められませんからね。ですから、これから骨粗しょう症に取り組む皆さんは8~18について今の生活を見直してみましょう。
骨粗しょう症を防ぐ食生活
まずは食生活を見直してみましょう。8~13、17、18が該当します。
骨を作るのに必要なカルシウムは、不足してしまうと骨が作り直せないばかりか、血液中のカルシウムが不足すると骨からカルシウムを放出するので、さらに骨粗しょう症が促進してしまいます。50才以上の日本人女性で勧められているカルシウム摂取量は650mgですが、実際の摂取量は約500mgと言われています。
つまり平均的にカルシウムを摂取していても1日150mg程度のカルシウムが不足していると考えられます。しかし、ただ単にカルシウムの多い食べ物を食べても、実際に腸から吸収されなければ骨まで届けることができません。最も吸収率がよい食べ物は乳製品で、摂取したカルシウムの約半分を腸が吸収できます。
不足分の150mgを牛乳で補うなら1日約300mlです。ただし、日本人は牛乳を飲むと下痢をする人が多いので、そういう場合にはスキムミルクやカルシウムが添加された商品もあるので、工夫して摂取しましょう。
ビタミンDの1日の必要摂取量は5.5μgです。実際の摂取量は調査によると50歳以上の女性で7μgと報告されており、通常の食事をしていれば不足することはありません。さらにビタミンDは食物からの摂取だけでなく、太陽の光を浴びることで皮膚で作り出すこともできます。
ビタミンKの1日必要量も150μgですが、調査では日本人の平均的摂取量は229μgと報告されています。特にビタミンKが多い食べ物は納豆であり、納豆1パックに含まれるビタミンKは240μgです。なので、時々納豆を食べる人は不足の心配はありません。納豆が嫌いな人は小松菜やホウレンソウからも摂取できます。
次に気をつけるのは「リン」の摂りすぎです。体内のリンの量はカルシウムと連動しており、リンを摂りすぎると血液中のカルシウムを見合うだけ増やす必要が出て、骨からカルシウムが放出してしまいます。リンは食品の保存料に多く含まれ、不足することはほとんどありません。むしろ現在では過剰摂取のほうが問題になっています。保存料を使っているハムやソーセージ、冷凍食品やカップラーメンなどが多い人は、食生活を見直しましょう。
もう1つ摂りすぎに気をつけなければいけないのは塩分です。塩分の中のナトリウムは摂りすぎると尿から排出されるのですが、その際にカルシウムも一緒に捨てられてしまうのです。塩分も摂りすぎている人が多いのですが、多くの人は高血圧の原因とは知っていても、骨粗しょう症の原因ということは知らない人が多いです。減塩も骨粗しょう症の予防になるのですね。
さて、アルコールの過剰摂取も骨粗しょう症の原因になります。アルコールは腸からのカルシウム吸収を邪魔し、またアルコールの利尿作用で尿量が増えるとカルシウムも尿から出ていってしまいます。骨粗しょう症になる危険があるアルコールの量は1日2単位以上のアルコールと言われています。アルコールの1単位とは純アルコールに置き換えて20gになります。2単位以上の飲酒とはビールならおおよそ中びん2本(1リットル)、日本酒なら2合(360ml)、焼酎なら1.2合(220ml)、ワインなら1/2本(360ml)以上が目安になります。
アルコール濃度によって異なるので、自分の飲んでいるアルコールの実際の量を計算するときには以下の式で計算してみて下さい。
<アルコール度数の計算式>
お酒の量(ml)×[アルコール度数(%)÷100]×0.8÷20
例)アルコール度数が8度の缶チューハイを2缶(700ml)飲んでいる場合
700×[8÷100]×0.8÷20=2.24単位
1日5杯以上のコーヒーも骨粗しょう症の原因になるという報告もあります。カフェインも腸のカルシウム吸収を妨げ、利尿作用による尿量増加でカルシウムが尿に出て行ってしまうと考えられていますが、コーヒーについては普段カルシウムをしっかり摂取していれば問題ないという報告もあり、はっきりしていません。
さて、骨粗しょう症予防のためにどのように食生活を見直したらよいかについて説明しましたが、実は若い女性でも無理なダイエットが骨粗しょう症の原因になることもあります。今流行のファスティングなどでも栄養素を考えていないと、カルシウムが不足し骨粗しょう症になってしまうので注意が必要です。
その他に生活で気をつけること
その他に生活で気をつける事は運動です。骨は体を支える役目をしていますが、体を支える必要がなければ、骨を丈夫にする必要がないと勘違いしてしまいます。ですから普段運動の少ない人は注意が必要です。
最近では「かかと落とし」という運動が有名ですね。全身運動は骨粗しょう症の改善だけでなくほかにも体に良いことがあるので、本当は全身運動のほうがいいと思いますが、骨を丈夫にするだけなら、踵を上げて床にトンと打ちつけるかかと落としでも効果があるようです。
その他に太陽の光を浴びると皮膚でビタミンDを作ることができ、骨粗しょう症の予防効果が期待できます。外に出ていても、日傘をさして、日焼け止めを全身に塗っている場合では皮膚に届く紫外線が少なくなり、あまりビタミンDを作ることができません。
ビタミンDを作るために必要な紫外線の量は雲の量や緯度などの影響も受けますが、例えば北海道で冬の真昼に皮膚だけで1日の必要量のビタミンDを作るためには76分、外の日陰ではその2倍の時間程度が必要と言われています。
タバコは吸っている人と吸っていない人を比較した場合、吸っている人では約2倍骨折しやすいと報告されています。もし今喫煙している人が禁煙をすればこの2倍の危険性は1.4倍まで減少することができると推測されています。
どうですか?もし、思い当たることがあれば改善できるところから取り組んでみましょう。ちなみに私は骨粗しょう症の数字は平均的でした。でも、食事でカルシウムが少ないな、最近冷凍食品が多かったな、というときはカルシウムのサプリを服用しています。ちなみにこのサプリは100円ショップで買ったものです。カルシウムだけならわざわざ病院に行かなくてもいいですね。
以上で骨粗しょう症のシリーズは終了です。何はともあれ、まずは1度も骨粗鬆症の検査を受けたことがない人は検査を受けてください。今の行動が将来の自分を骨折から守ってくれますよ。
内科医
春田 萌
日本内科学会総合内科専門医/日本消化器内視鏡学会専門医
大学病院、二次救急病院、在宅医療を経験。
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